■ノコノス事件と銀河ブログ協会の設立
惑星ノコノスはノコの一大産地として知られ、「ノコノスを知らずしてノコを語るな」と言われるほど、銀河中のノコ愛好家から親しまれていた。ちなみにノコとはノコノス原産の四足小形動物で、体長は約30センチほど、爪を自由に出し入れできる。また目は顔面前方に位置し、瞳孔は縦長である。地球の哺乳類ネコに酷似する生物である。
しかし、あの忌まわしいノコノス事件を機にノコノスのノコ産業は壊滅的な打撃を受け、現在に至るまで立ち直れない状態が続いている。
■ノコノス事件前史
ノコ貿易は惑星ノコノスにとって生命線であり、同時にノコニアンの繁栄を約束する一大事業だった。ノコを愛玩用ペットとして輸出することを最初に思いついたのは、今からさかのぼること約550年前、ノコノスを統一したノコジャラシ1世であるという。
当時ノコはノコノス土着の宗教ノコ教によって、神の使いとして保護されており、ノコノス全土には無責任に餌をあげる信心深いノコニアンによって増やされた野良ノコが溢れかえり、深刻な公害問題に発展していた。また、ノコを利用した宗教裁判が相次ぎ、ノコ教会勢力による一種の魔女狩りが横行していた。この事態を重く見たノコジャラシ1世は、野良ノコを他の惑星に愛玩用ペットとして売り飛ばすことを考えた。惑星によってはノコを愛玩用ペットとして珍重する風潮があり、野良ノコに適当にブランドをつけて売り飛ばせば儲かるし、野良ノコ公害問題も解決するではないか、こう考えたらしい。
かくしてノコジャラシ1世の目論見は大当たりし、ノコノスはノコ輸出によって銀河有数の富裕惑星となったのである。
■ノコノス事件前夜
ノコ輸出惑星として繁栄を極めたノコノスであったが、現在はその面影を見つけ出すことも難しい惨憺たる状態になっている。かつて月産30万匹を数えたノコ生産高は今では月産200匹程度に落ち込み、その中でも輸出に耐える毛並みのノコは半数に満たない。この惨状をもたらしたのはすべてノコノス事件であり、この事件をきっかけに、ノコノスの繁栄に終止符が打たれたといって良いだろう。
ここで、ノコノス事件の状況を、順を追って説明しよう。
まずバンドンという作家が登場する。この作家が、不幸にもすべての始まりを作った人物である。この作家はノコノスの新聞にコラムを持っており、そのコラムの一部が、よりにもよってブロガーにスッパ抜かれてしまったのが不幸の始まりだった。バンドンは自身のコラムで「増えすぎた飼いノコを放置するのが忍びないので、生まれた仔ノコを殺害している」という内容の文面を書いた。これは野良ノコの公害に悩まされた歴史のあるノコノスの常識的感覚で言えば至極真っ当なことであり、惑星内でこの作家を非難する動きは、一部のノコ教狂信者の反発以外はまったく無かった。
しかし、この一新聞の一コラムに書かれたに過ぎない内容をスキャンしてウェブ上に載せ、子供っぽい非難を展開し始めたグループがおり、さらにブロガーたちがその尻馬に乗っかった。かくして、18億5000万匹のノコと20億人のノコニアンを死に至らしめ、ノコノスの人口の約半数を死滅させたノコノス事件が幕を開けることになる。
■ノコノス事件
ノコ暦2099年8月、ノコノス地方紙「毎ノコ新聞」にバンドンのコラム「ノコ殺し」掲載。その中にノコ殺しに関する記述があった。発表当時の反響は一部狂信者による毎ノコ新聞購読停止以外、反響と呼べるようなものは無かった。
同年8月20日、一部のブログで毎ノコ新聞バンドンのコラム「ノコ殺し」のスキャン画像を掲載しての非難記事があがりはじめる。このスキャン画像はもちろん著作権を無視し勝手に転載されたものである。
同年8月21日、KUSOブックマークサービスを中心にバンドンの仔ノコ殺しに対する非難記事が注目を集め始める。はじめに注目しだしたのは主にブロガーの中でも最下層に属するものたちであり、そいつらより自分はマシだと信じているより低俗なブロガーが尻馬に乗り始めた。これにより、バンドンのコラムを無断転載した非難記事は33兆4239億4380万アクセスを稼ぎ出した。
ちなみに、尻馬に乗ったブロガーたちの主だった面子の名前を挙げると、以下のようである。
グッチ・ハーク
モティエ・ナイ
エミン・ラダク
トゴネマ・ノン・ロギ
バロ・ワリョス、テラ・ワリョス兄弟
ギ・ゼン
エマ・テータ
イセ・ノトーヒ
イナクルワ・ハクボ
コーコロ・ヨワヒム
ヘルメン・リースカ
タレラ・ツタッツ
コ・マチ
バド・パト
なお、銀河市民の名誉のために付け加えておくが、仔ノコ殺しを非難しているのはブロガーのみであり、銀河市民はこの騒動に一切加わっていない。そもそも、まともな銀河市民なら、「飼い主がそう決断したんだから、外野がとやかく言うことはないだろう」このように考えて余計な差し出口はしない。そういう性質の問題に、しかめつらしく自説を開陳するような野暮はブロガーくらいだろと相場は決まっている。また、ブロガーの中には「この問題には言及しません」などとわざわざ偉そうに書き込むものも現れ、銀河中の嘲笑を買ったことは記憶に新しい。
同年8月28日、ノコノス事件勃発。
数日前からKUSOブックマークサービスにたむろしていた行き場のないアクセスが、ノコノス公式サイトに流れ始めた。これに伴い81兆以上のアクセスによる負荷が惑星ノコノスにのしかかるように殺到し、ノコノス全域の電波を強力に妨害した。
これにより、離陸直後の仔ノコ輸送船1000隻(仔ノコ500万匹搭載)がすべて墜落した。離陸時の管制塔から操縦がブロガーからの電波によって妨害されてしまった結果である。
また、運悪くノコノス大気圏付近を航行していた超弩級輸送船が強力な電波妨害により大気圏に突入、二つに引き裂かれた船体は大気の摩擦によって溶けきらず、巨大な金属の塊となってそれぞれ北半球のアビシニアン大陸付近と南半球のチンチラ諸島付近に墜落した。この墜落の結果、アビシニア自治区のブチ、シマ、マダラ、タマ各都市を地表からえぐりとり、歴史あるチンチラ諸島を消滅させた。
以上の二つの大墜落により、仔ノコを含む3億のノコと、5億のノコニアンが死亡した。しかし、被害はこれだけではすまなかった。輸送船の積荷が劇薬ノコイラズであったため、大気中にノコイラズの粉末が散布されてしまった。このノコイラズ中毒による死者がノコ、ノコニアン双方で最も多く、一次被害とあわせて18億5000万匹のノコと20億人のノコニアンの命を奪うこととなった。また、この事件をきっかけに各地で不妊や先天性異常を持つ子供の出生が倍増し、ノコノスの人口は目下急激な減少傾向にある。
かくして惑星ノコノスの文明は半壊した。これが、ノコノス事件の全貌である。
■ノコノス事件後
ノコノス事件発生の一報が銀河を駆け巡ると、銀河連邦共和国の特命により、直ちに事件の調査委員会が結成された。そして、事件をこれほど大きくしてしまった原因がブロガーの不見識によるものであるということが判明し、銀河中の話題を呼んだ。
当時のブロガーの見識がいかに程度の低いものであったか、平たく言えば如何に馬鹿であったかということを証明する資料を紹介しよう。この資料は調査委員会に参考人として呼ばれたブロガーの陳述を記録したものである。
「はい、僕がイナクルワ・ハクボです。ええ、ノコノス星の事故については知ってます。大変でしたね。え?なんで僕のせいなんですか?僕は悪くないですよ。だってそうでしょう。僕はただ殺される仔ノコがかわいそうだという一心で記事を書いたりトラックバックを飛ばしたりブックマークしたりしたんですよ、尻馬に乗ったなんてとんでもありません。妨害電波になったって?それは結果論でしょ?僕は悪くないですよ。一緒になってブックマークをしてきた人たちが悪いのであって、僕に責任はありません。ええ、心からそう思ってますよ」
なお、イナクルワ・ハクボは委員会に出頭する際は徒歩で入場したものの、帰りは意識不明の重体で担架で運び出されたことを追記しておく。
■銀河ブログ協会の設立
こうして、書き散らすだけ書き散らして一向に責任をとろうとしないブロガーたちに業を煮やしたノコノス事件調査委員会は、怒りのあまり発展的解散を遂げ、同委員会のメンバーを中心とした新しい機関を発足させた。
あらゆる下らない水掛け論に明確な解答を与えることによってブロガーの書くことを無くし、時には実力行使でブロガーの数を減らすことを至上任務とする特務機関「銀河ブログ協会」である。
(イントロ)
いつの世にも馬鹿は絶えない。
その頃、銀河連邦共和国は銀河ブログ協会という特務機関を設けていた。
凶悪なブロガーの群れを容赦なく取り締まる為である。
独自の機動性を与えられたこの銀河ブログ協会の長官こそソグ・キマ。
人呼んで鬼のソグ・キマである。
続く