2006年05月21日

ネバー・エンディング・ブログ・ストーリー その4

前回までのお話

ネバー・エンディング・ブログ・ストーリー
ネバー・エンディング・ブログ・ストーリー その2
ネバー・エンディング・ブログ・ストーリー その3



■脊髄反射の沼とコポンチの危機

 正論港を出発したコポンチと翁は、何日も何日も歩いて、ようやく脊髄反射の沼にたどり着きました。この沼を越えれば、メタの賢人が住むメタの森はもうすぐそこです。しかし、コポンチは沼のかもし出す何となく薄気味悪い雰囲気に尻込みしました。沼には船も無ければ橋もかかっていません。ここを進むものは自分の足だけで進まなければならないのですが、この沼のそこの見えない濃い緑色のぬるぬるした水面といい、時折沼のそこから溢れ出す気色の悪い泡といい、とても率先して足を突っ込みたくなるような沼ではありません。
 コポンチが第一歩を踏み出しかねていると、翁がいつになく厳しい顔でたずねてきました。

「コポンチ、君はこの沼の秘密を知っているかね?」

「いいえ、知りません。何かあるんですか?」

「ふむ、この沼には恐ろしい秘密があっての、ここに足を踏み入れた旅人には、ありとあらゆる罵倒の言葉が沼の奥底から沸きあがって聞こえてくるのじゃ。もし旅人がその言葉に対して少しでも怒りを感じたり、言い返したりしたら、この沼は底なし沼になって旅人を飲み込んでしまうのじゃ。怒りというものは一旦心に芽生えると押さえがきかせづらい。沼はその人の心の弱さにつけこんで罵声を浴びせてくるのじゃ。じゃから今まで多くの者がこの沼に飲み込まれて溺れ死んでいった。よいか、くれぐれも沼の声に耳を貸してはならんぞ。軽はずみに答えたら最後、沼の奥底まで引きずり込まれてしまうぞ」

 コポンチは震え上がりました。しかし、この沼を越えなければメタの賢人に会うことが出来ません。そこで、勇気を奮って沼に入っていきました。
 緑色のくすんだ泥水に足を踏み入れるたびに生暖かいぬるぬるしたものが靴の間から入り込んできます。水面であぶくがはじけるたびにあたりに漂う腐った卵のような匂いはかいだだけで立ちくらみそう。コポンチがぜいぜい息を荒くしながら前を見ると、いつの間にかコポンチを追い抜いた翁が、自分の妄想から生み出したサルたちと楽しそうに踊りながら沼地を渡っています。妄想の世界を結界のように張りめぐらして、沼地の罵声から身を守っているのです。

 そうこうしているうちに、コポンチの周りから薄気味悪い罵声が沼の奥底から沸きあがってきました。

「また香ばしい電波が来ましたよ?」
「これはひどい」
「wwwwww」
「死ねばいいのに」

 コポンチはなるべく罵声を聞かないように、あれこれ別のことを考えながら、必死になって前に進みました。それでも罵声は容赦なくコポンチに襲い掛かります。

「この短小野郎」
「キンタマのちいせえ野郎だ」

 コポンチはカチンときました。自分の一番触れて欲しくない、もろくはかない部分が、ずたずたに引き裂かれたような気持ちになりました。心の中のほんの一点に出来た黒いしみのような怒りが、じわじわじわじわと、川の水が決壊していくように心を支配していきました。コポンチは術中にはまりました。前に出した足が沼の奥底のほうにズブズブと沈んでいきます。それでも怒りに我を忘れたコポンチは、怒りに震えながら沼地の声に向かって怒鳴り返しました。

「うるさいうるさい!キンタマのないやつにキンタマの小さい男の気持ちが分かってたかるか。どうせお前らなんて沼地でぶつぶつ言ってるしか脳のないやつらばっかりだろ。おまえらこそ死ねばいいのに。死ね死ね死んでしまえ!」

 一言話すごとにコポンチの体は沼地に沈んでいきます。もうコポンチは腰まで沈んでしまいました。それでもコポンチは何かに取り付かれたように罵るのをやめず、浮いている小石やら泥やらを手当たり次第に四方八方投げつけて、悪態の限りを尽くします。
 しばらくして翁が異変に気づいて戻ってくるのが視界の片隅に見えましたが、もう間に合いません。コポンチはついに完全に底なしの沼に沈んでしまいました。

 完全に沈んでしまってから、コポンチは我に返りました。ああ、自分はなんてバカなことをしてしまったんだ、緑色の泥水の中にうっすらと日の光が見えてきた、きれいだなあ、もうこれが僕の見る最期の景色なんだな。コポンチは生きることを諦めようとしました。その時、薄れ行く意識の中でコポンチは幼いころ死に分かれた母の幻を見ました。母は言いました。コポンチや、もうちょっと頑張りなさい、お前は心の優しい子だよ、あんな悪口を言うような子じゃないというのは母さんが一番よくわかってるんだからね。だから戻ってらっしゃい。まだやり残したことがあるでしょう……。

 気が付くと、コポンチは泥だらけになって対岸に横たえられていました。傍らには心配そうな翁の顔と、もう一つ別の顔がありました。

「あ、れ?僕はどうして……、ここは?」

 翁が答えました。
「ここは沼の対岸じゃ。この方が君を助けてくれたんじゃよ」

 翁の隣には初老の優しそうな女の人がコポンチを覗き込んでいました。その優しそうな顔にはどこか悲しみが入り込んでいるように見えました。コポンチは起き上がってお礼を言いました。

「あなたが僕を助けてくれたのですか。ありがとうございます」

「いいのよ。私はこのあたりでは沼地の母と呼ばれているの。本当の名前はもう忘れたわ」

 沼地の母が答えた声を聞いて、コポンチは驚きました。さっき幻で聞いた母さんの声だ、じゃあ僕が幻の中で聞いた母さんの言葉はこの人の言葉だったのか?
 コポンチの推測は当たっていました。沼地の母の話によると、彼女はコポンチが沈むのを見て、急いで駆けつけてコポンチを救いだしてくれたということです。沼地の母はかれこれ10年以上この沼地のほとりで暮らしていて、たまにここを渡る人を見つけては、旅の手助けをしてやっているそうなのです。そして旅人の間ではいつしか沼地の母の通り名で呼ばれるようになったらしいのです。

 一息つくと、コポンチは不思議に思いました。自分で抜け出そうにも抜け出せなかったあの沼の中から、非力そうな沼地の母がどうやって助け出してくれたのだろうと。そのことを聞くと、沼地の母は答えました。

「簡単なことよ。沈んでいく人に声をかけてあげるの。あなたはそんな人じゃないって。私は分かってる、本当のあなたは人の口汚く罵るような人ではないって。こういう風に言ってあげると、言葉の届いた人は我に返って、手を貸さずとも自分から浮かんでくるものなのよ。言葉の届かなかった人にはもう打つ手はないんだけどね。それで、あなたは自分の意志で浮かんできてくれたわけ」

「そうだったんですか……。本当にありがとうございました。ご恩は一生忘れません。ところで、沼地の母さんはどうしてこんな恐ろしい沼にいるんですか」

「それは、この沼を通る旅人に一人の犠牲者も出したくないからよ。私には一人息子がいたんだけどね、家を出て行ってこの沼に入り込んで、つまらない罵声に脊髄反射で答えちゃって、沼に沈んじゃったのよ。今でもうちの子はこの冷たい沼の底で眠っているわ。だから、うちの子が寂しくないように私がこうしてここにいてあげてるわけ。母さんはここにいますよ、いつでも戻っていらっしゃいって」

 沼地の母はつとめて明るく話してくれました。それでもコポンチたちには子を失った母の悲しみが痛いほど伝わってきました。



■メタの森のメタの賢人

 沼地の母にお礼を言って脊髄反射の沼をあとにしたコポンチたちはついにメタの森にたどり着きました。メタの森はとてもに変わった森で、立ち入るものに、森とはなんなのか、森はどうあるべきかをメタ的視点でとうとうと語りかけてくる木々によって構成されたメタ的な森なのです。たくさんの木々に聞いてもいないメタ講座を聞かされながら、こんな森に住んでいて平気なメタの賢人とは一体どんなすごい人物なのだろうと、コポンチは期待に胸を膨らませました。

 しばらく森を探検していると、やがて小さなバラック小屋が見つかりました。ここがメタの賢人の住処に違いありません。コポンチたちは喜び勇んでメタの賢人のドアをノックしました。

 とんとん。

「どうぞ」

 中から返事が聞こえました。早速入ってみると、壁一面に書棚が張り巡らされ、それに押し潰されそうにして小さな机と椅子が部屋の真ん中にちょこんと置いてあり、そこにメタの賢人が座って一心不乱に書き物をしていました。
 コポンチは早速用件を切り出しました。

「はじめまして。私はコポンチ・イャチッチと申しまして、女王陛下の命令により、メタの賢人に虚無からブロゴスフィアを救う知恵を聞きに参りました。どうかこのブロゴスフィアを救うためのお知恵をお貸しください」

 すると、メタの賢人は顔を上げ、鼻で笑いながら言いました。

「あなたは思い違いをされている。私は世間で言うところのメタの賢人を観察するメタ・メタの賢人なのですよ。私の専門はメタの賢人の観察であって虚無なんちゃらがブロゴスフィアを飲み込む飲み込まないなんて関心ありませんね」

 コポンチは大変混乱しました。

「え?それじゃあ、あなたはメタの賢人じゃないのですか?」

「いいえ、私は確かに世間でメタの賢人と呼ばれています。しかし本当の私は世間でイメージされるところのメタの賢人という現象を観察するメタ・メタの賢人なのですということを言っているのです」

 コポンチはますます混乱しました。

「ちょっとまってください。あなたはメタの賢人だけれどもメタの賢人じゃないということですか?」

「そうではありません。さっきから言っているように、私は世間からメタの賢人と呼ばれていますが、実際は私がメタの賢人と呼ばれている現象を観察しているメタ・メタの賢人だといっているのです」

 話が一向に前に進みません。コポンチはこまりはてていいました。

「それじゃあ、あなたはブロゴスフィアを虚無から救う知恵をお持ちでないんですね?」

「いいえ、そうではありません。虚無がブロゴスフィアを飲み込むとすればそれはメタ・ブロゴスフィアというべきであり、それは私の研究対象が増えることを意味しています。ところで、あなたは虚無がブロゴスフィアを飲み込もうとしているところを実際に見たのですか?」

 こう聞かれると、コポンチは言い返せませんでした。確かにお城で女王様に言われて何となくそう思っただけで、コポンチ自身が見たわけではありません。コポンチが困り果てていると、翁が助け舟を出してくれました。

「確かに虚無そのものは見えぬ。しかしわしはここ最近ブロゴスフィアの人々の心の中の虚無が大きくなってきているのをはっきりと感じ取っておる。女王の言っていることはあながちでたらめではないぞ。それにブロゴスフィアが虚無に飲み込まれたら、お前さんのメタの賢人観察とやらもできなくなるぞ」

「感じ取るなどという感覚的な言葉を使われても分かりません。それに虚無にブロゴスフィアが飲み込まれる事と私の研究が出来なくなることのつながりが分かりません。私はどんな問題にもメタ的視点で観察するだけですから、世界がどうなろうと私には何の関係もありませんな」

 コポンチはムッとしました。

「それじゃあ、あなたはメタ・メタ視点で観察が出来れば、この世界に住む人々はどうなってもいいというんですか?」

 メタの賢人もといメタ・メタの賢人は乾いた声で言いました。

「ええ、構いませんよ。ただ観察する対象が減ることは悔やまれますが……」

 メタ・メタの賢人のそっけない、あまりにそっけない他人事のような言葉を聞いて、コポンチの心の糸のどこかが、ぷちんと切れました。この人は何があってもただメタ視点で観察して余裕ぶっこいていたいだけなんだ。こんな人に聞いても問題が解決するはずがない。コポンチはメタ・メタの賢人に投げつける次の言葉を捜しました。そして、自分の乏しい語彙の海を引っ掻き回してひっくり返して洗いざらいぶちまけて探して、やっとメタ・メタの賢人に投げつける次の言葉が口から飛び出しました。

「お前はろくでなしの役立たずだ!」

 言い放つとコポンチはさっさと外に出て行ってしまいました。翁も強いて止めませんでした。



■新たな決意

 さてメタ・メタの賢人の家を飛び出したコポンチに翁が尋ねました。

「コポンチや、気持ちは分かるが、これからどうする気じゃね?」

 コポンチは答えました。

「もともと見も知らない人に自分たちの問題解決のために知恵を借りようとしたのが間違っていたんです。女王様に正直にメタ・メタの賢人は役立たずでしたと言いに行きましょう。そして僕たち自身で解決策を編み出しましょう」

「そうじゃな、それがいい」

「ところで、気になったんですが、本当にブロゴスフィアは虚無に飲み込まれようとしてるんですか?僕は直接見たわけじゃないから本当なのかなあって疑問に思っちゃって」

「本当じゃ。君は気づかなかっただけでその予兆を見ているんじゃよ。たとえば正論港の奴隷を何人も見たじゃろう?あれは昔はそんなにめったに見られるものではなかったんじゃよ。最近になって急に数が増えおった。虚無が人の心から忍び寄っている証拠の一つじゃよ。気をつけないと虚無はあっという間にブロゴスフィアを覆いつくす。急がねばならん」

 こうして決意を新たにしたコポンチと翁は、メタ的に話しかけてくる森の木々の枝をへし折りながら、女王陛下のお城を目指してメタの森を後にしたのでした。



その5へ続く
posted by ちんこ寺 at 23:41 | Comment(0) | TrackBack(1) | コポンチ・イャチッチ b_entry.gif

ネバー・エンディング・ブログ・ストーリー その3

前回のお話

ネバー・エンディング・ブログ・ストーリー
ネバー・エンディング・ブログ・ストーリー その2



■ネッタとマージの兄弟げんか

 ネチケット墓地群のかわいそうなお坊さんたちのお寺を後にしたコポンチたちは、次の目的地である正論港を目指して出発しました。しばらく歩いていくと、道の途中で2人の男が何やらもめているようです。コポンチたち(主にコポンチ)は気になって、思わず近寄ってしまいました。
 男たちはコポンチたちに気づく風も無く口論をしています。

「だから、いくら兄弟だからって、死ねばいいのになんて滅多に言うもんじゃないよと言ってるんだよ。何でお前はいつも話をはぐらかすんだネッタ?」

「マージ、ネタにマジレスするなんてマジでかっこ悪いぜ。兄弟なんだからよ、そんなちいせえこと気にすんなよ」

「何回も言わせるなネッタ。俺が言ってるのは、たとえ冗談でも人に向かって死ねというようなことは言うなといってるんだ。お前がいくらネタだネタじゃないとふざけた言い訳をしたところで傷つく人間は傷つくんだよ。正直俺は傷ついたぜ」

「うっせえバカ」

「何をっ」

 見かねてコポンチが止めに入りました。

「ちょっと待った、ほら、二人とも手を離して……。一体どうしたのですか?こんな道端で喧嘩なんかして」

「あ、あれ……、ああそうか、いやすみません、道のど真ん中をふさいじゃって……」

 マージが答えました。マージの話によると、マージとネッタは兄弟なのですが、マージからすると弟のネッタの態度が折に触れてシャクにさわり、ついつい小言を言ってしまうのだということでした。ネッタはマージが話している間中、「ネタニマジレスカコワルイ」とか「そんな釣りに引っかかるか」とか、さかんに文句を言ってはどやしつけられていました。

 マージの話によると、マージとネッタは早くに両親をなくして身寄りが無く、二人で力をあわせて生きてきたのだそうです。ところが、なぜかネッタだけ年を経るにつれて虚栄心が強くなり、ネタだの釣りだのと人を見下して喜ぶ癖が付いてしまったそうなのです。マージは、これも自分の教育が悪かったのだと、ひどく後悔している様子でした。
 コポンチはマージに心から同情しました。

「そうですか……。お兄さんも苦労が多いんですね」

 コポンチがマージと話し込んでいると、ネッタが歯をむいて怒鳴りつけてきました。

「おい、ギャラリーが口出すなよバカ。くだらねえネタにいちいち反応してんじゃねえよ。半年ROMってろこの電波野郎」

 コポンチは非常に気分が悪くなりました。寝不足というのもありますし、何よりもネッタの立ち居振る舞いがどうも苦手でした。そこでコポンチは関わりあうのをやめて先を急ぐことにしました。後ろからは再び兄弟の果てしない言い争いの声が聞こえはじめました。



■正論港の奴隷船

 ネッタとマージの口げんかがもうすっかり聞こえなくなって、さらにしばらく歩いていくとブロゴスフィア最大の港町である正論港に着きました。翁の話によれば、正論港は理屈水揚高、取引高ともに世界1位のどうどうたる港だということです。ここから出荷された理屈は世界中の理屈好きの装飾品としてさまざまな品物に加工され、流通し、もてはやされ、飽きられ、捨てられて海に戻り、再び正論港に舞い戻ってくるのだそうです。

 今まで戦場やら墓地やら、あんまり居心地の良くないところばかり通っていたコポンチにとって、活気に満ちて東西の珍しい品物溢れる正論港は夢のようなところでした。市場には正論ティーに正論白磁、正論経典、それになんとあの大将軍の理論武装脛当てと同じようなものまでありました。交易所では正論家の貿易商がお互いの正論をぶつけ合いながら活発に取引をし、酒場では正論好きな船乗りや荒くれ者たちが正論ビールを飲みながら、時には正論を応酬し、時には正攻法の喧嘩を繰り広げる始末。世界一理屈が好きな海の男たちの溜まり場となっていました。

 しばらく港町をあるいて見物していると、たまに鎖につながれた人たちを目にすることがありました。コポンチは翁に聞きました。

「あの、たまに鎖につながれて歩いている人がいますけど、あれってなんなんですか?」

「ああ、あれは文字の奴隷じゃよ。大きな声では言えんが、ここ正論港では奴隷貿易も盛んに行われているんじゃよ」

「奴隷なんですか?なんだかずいぶん偉そうな人たちのように見えますけど」

「確かに、不思議に思うのも無理はあるまい。あの奴隷たちは自分たちが鎖につながれて奴隷になっていることに気づいていないんじゃよ。だからあんな鎖につながれながら、したり顔で街中を歩けるんじゃよ」

 コポンチはなんだかよくわからない気持ちになりました。あんな鎖をつながれて気づかないなんていうことがあるんだろうか?そんなことがあるわけが無いと思いました。そんなコポンチの気持ちを見透かすように、翁は話を続けました。

「人間には見たくないものは見えないものなんじゃよ。とくにこのブロゴスフィアでは見たくないものを見えないことにして済ますのは簡単なことじゃからの。意識的であれ無意識的であれ、見たくないものを見えなかったことにしてしまうクセがつくと、すぐに文字の奴隷に転落してしまう。とくにこの正論港ではな」

「どういうことですか?僕には全然意味が分からないですよ」

「つまり、ここ正論港では普通よりたくさんの正論に触れることが出来て、その理屈を誰でも気軽に借りることが出来る。しかしそれが奴隷転落への落とし穴なんじゃ。正論を吐くのは気持ちいいじゃろう?だからみんな自分の本当の気持ちを深く考えようとせず、ついつい居心地のいい借り物の正論に頼りきるようになってしまうのじゃ。本当の自分はこういう風に思っている、でもお前は間違っているといわれるのが怖い、だから無難な正論を借りてとりあえずしゃべっとけという心が、やがて依存心を生み出すのじゃ。そしてひどいのになると、自分の感情を理屈で固めて正当化し、正論めいたものをこねくり回すようになる。こうなるとうわべを取り繕うのに精一杯になって字面の解釈のみに目が行くようになり、人の心の動きが見えなくなる。そうなると鎖につながれているのにも気づかず、正真正銘の文字の奴隷に転落してしまうんじゃ」

「ううん、難しいですね。分かったような分からないような……。ところで、その奴隷たちはどうなるんですか?」

「うむ、奴隷たちは自分たちが奴隷になったことに気づかないまま奴隷船に乗せられて沖に繰り出すんじゃ。船の中は奴隷たちの華やかなサロンになっており、喧々諤々の大激論、正論まがいと自己正当化の坩堝になっておる。なにしろ彼らは自分たちが奴隷になっていることに気づいていないし、おしなべてプライドの高い気難し屋ばかりじゃからの。そこでころあいを見計らって船底の弁を抜き、奴隷ごと船を沈めるんじゃよ」

「ええ?なぜそんなひどいことをするんですか?」

「それは、奴隷たちの繰り出す理屈は、海に沈むとやがて新しい理屈となって海中を泳ぎ回り、やがて港に水揚されて、正論港の水揚高に貢献することになるのじゃ。聞くところによると、正論港の水揚高の半分近くがこの奴隷たちの命でまかなわれているとの事じゃ」

 コポンチは大変なショックを受けました。

「狂っている、こんなばかげたことがあっていいのでしょうか?」

「確かにあってはならないことじゃ。しかし奴隷たちがいなければ正論港の今の繁栄は無いんじゃよ。コポンチや、物事の本質を見失ってはいかん。正論正論といったところで、結局自分がしっかりしていなければ何も見えていないのと同じことなんじゃよ」

 翁は優しく諭してくれました。しかしコポンチの心の中は割り切れない気持ちでいっぱいになり、いまにも破裂しそうな気持ちになりました。この正論港には、巨大な虚無が積もり積もっているようです。もしこんなものがブロゴスフィアをすべて丸呑みしてしまったら……、そう思うと体の奥から震えが伝わってきて、今にも歯がガチガチ鳴りそうです。こんなばかげたことをやめさせるためにも、はやくメタの賢人に会いに行かなくてはと、コポンチは決意を新たにしたのでした。



その4に続く
posted by ちんこ寺 at 00:37 | Comment(3) | TrackBack(1) | コポンチ・イャチッチ b_entry.gif

広告


この広告は60日以上更新がないブログに表示がされております。

以下のいずれかの方法で非表示にすることが可能です。

・記事の投稿、編集をおこなう
・マイブログの【設定】 > 【広告設定】 より、「60日間更新が無い場合」 の 「広告を表示しない」にチェックを入れて保存する。


×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。