■プロローグ コポンチ・イャチッチの旅立ち
コポンチ・イャチッチは夢の世界「ブロゴスフィア」で暮らす、体の一部分がとても小さいだけの、ごく普通の青年です。ある日コポンチは、畏くもこのブロゴスフィアをお治めになられている大君、ブログの女王様から突然お呼びがかかりました。コポンチは大変驚きました。彼は体の一部分がとても小さいだけの、ごく普通の青年なのです。そんなごく普通の青年に、畏くもブロゴスフィアをお治めになられているブログの女王様からお呼びがかかるとは一体どうしたことでしょう。
「これは大変だ。急いで支度をしてお城へ向かわなければ。しかし何でこの僕が呼ばれるんだろう?……ハッ、まさか、僕のがどれだけ小さいのかをお城のみんなで賭けてるんじゃないだろうな。どうしよう、やだなぁ……」
コポンチはいかにも平凡な青年らしいコンプレックスを胸に秘めながら、おずおずとお城に向かいました。
■女王陛下の憂鬱
お城に着いたコポンチ・イャチッチは、早速お城の広間に通されました。さあ定規でも分度器でもノギスでも何でももってこいやと覚悟していたコポンチでしたが、広間についてみるとその暗く重苦しい雰囲気から自分の想像が外れていることにようやく気づきました。
「コポンチ・イャチッチ、よくきてくれました」
ブログの女王様がじきじきに御声をかけてくださいました。その透き通るような美しい御声は心なしか元気がなさそうに聞こえました。
「コポンチ、あなたを呼んだのは非常に重要な役目を申し付けるためなのです。いいですか?現在、ブロゴスフィアは大きな虚無に飲み込まれようとしています。この危険を回避するためには、はるか西方、メタの森に住むメタの賢人の知恵を借りなければなりません。そこであなたに、メタの賢人への使いとなって、この世界の窮状を訴え、知恵をもらってきて欲しいのです」
コポンチは驚きました。
「お言葉ですが、なんで僕なんですか?」
「あなたでなければいけない訳があるのです。さあ、行きなさい。あなたはこの世界の行く末を担っているのです。これは女王命令です」
女王様が優しく諭すように言われると、屈強な兵士がコポンチを取り囲んで睨みを利かせてきました。コポンチは生命の危険を強く感じたので、襟を正して丁重な態度で女王命令を受けました。
■過去ログ学者の過去ログ論争
さて命令を受けたのはいいものの、コポンチにはメタの賢人がすむメタの森とやらがどこにあるのか皆目見当も付きません。はるか西にあるだけでは何も分からないのとそう変わらないのです。
そこでコポンチは、お城の学者先生に聞こうと思い、お城のサロンに向かいました。
サロンでは学者たちが活発な議論を戦わせている最中でした。コポンチは聞きました。
「こんにちは。僕はコポンチと申しまして、女王様の命により、これからメタの森に行くのですが、メタの森はどこにあるか教えてください」
学者の一人が振り向きざまに答えました。
「うるさい。今大切な議論の最中なんじゃ。貴様の下らん用事など聞いている場合ではないわ」
コポンチはムッとして聞きました。
「女王命令より大切な議論とはなんですか?」
「過去ログを読むか読まないかじゃ」
唖然とするコポンチをよそに、議論は続きます。
「……そもそも過去ログを読めといわれても、長年続けているブロガーの過去ログは何万文字にも達し、コメントも含めて全部読み返すなどというのは不可能に近いではないか?であるからわしは過去ログなど読まずに目の前の記事を読むだけで良いということをさっきから言っておるのじゃ」
「それは話のすり替えですな。私が言っているのは現在の記事と関係のある過去ログを読めということであり、すべての過去ログをあされといっているのではありません。また、過去ログもろくに読まないで記事を判断することはブロガーへの冒涜であり……」
コポンチはうんざりしてさっきの学者先生に聞きました。
「先生、先生自身は読者に過去ログを読みたいと思わせるような、面白い記事を書いているのですか?」
「もちろんじゃ。君も失礼な男じゃな。よいか、わしは過去ログに関する記事を622個も書き、同じくブックマークのコメントを1519もつけているのじゃ。わしのブログとブックマークのコメントを全部読めば、貴様も過去ログ読む読まない問題の専門家になれるぞ」
コポンチは驚きあきれました。これでは女王様もお城の学者を頼りにしようとは思わないだろうなあと、女王様に対して心より同情申し上げました。
■竹林の庵とおサルの学級
なんだか非常に気抜けしたコポンチは、とりあえずお城を出て西に向かうことにしました。
どのくらい歩いたでしょうか。しばらく歩いていくと、竹林の壁紙の中に何やら寂しげな庵がありました。コポンチは今夜はそこに泊めてもらおうと決めました。
「すみません、こちらに一晩泊めていただけないでしょうか」
戸をたたくと、しばらく間があって白髭白髪の品の良いおじいさんが出てきました。
「いいともいいとも。今夜はうちに泊まりなさい」
庵に入ると、思ったより広々とした室内に、たくさんのお猿が机に向かって何やら一心不乱に書き物をしていました。
「おじいさん、あの猿たちはなんなのですか?」
「あれか、あれはブロガーじゃよ。ああやって机に向かって記事を書いたりブックマークのコメントをつけたりと、一生懸命になって励んでおる。ほれ、あの真ん中で自分の記事をばら撒いているのがおるじゃろう?あれがアルファブロガーじゃ。書くことの無いサルはああやってばら撒かれた記事を真似して記事を書いたりブックマークしたりしてるんじゃよ。どうかな、君も一緒にやってみないかね」
「いや、いいですよ別に。おサルに混ざるのなんて何か恥ずかしいし」
「いいからやってみなされ」
半ば強引に勧められて、コポンチは仕方なくおサルに混じって記事を書いたりブックマークのコメントをつけてみました。そうすると以外や以外、非常に面白いのです。紙に記事を書いてしばらくすると、余白に他のサルがコメントを書きにきます。また自分から他のサルの紙にコメントを書きに行ったりしました。不思議なことに、どんなにひどい事を書いても、サルたちは掴みかかってきたりせず、黙々とコメントで返してくるのです。コポンチは時間がたつのを忘れてサルたちとお互いの紙に書き込みあいました。
突然、コポンチは異変に気づきました。コメントを書いている腕が、まるっきりサルの腕になっているのです。あわてて顔に触りました。あご周りにたくさんの体毛が生え、鼻がのっぺりして口が大きくなっていました。
気づかないうちに、コポンチの体はどんどんサルに近づいていたのです。
「た、助けて」
コポンチはおじいさんにすがりつきました。
「おや、これはいかん。ほれ、もう大丈夫じゃよ」
おじいさんが何やらまじないをかけると、コポンチは見る見るうちに人間の姿に戻りました。コポンチはあわてました。
「今のはなんだったのですか?」
「まあ、あれじゃ、説明しづらいんじゃが……」
■妄想の翁
おじいさんはサルたちに混じって記事を書きながら説明してくれました。
何でもこのサルたち、というかこの竹林自体がおじいさんの妄想の産物で、すべておじいさんが妄想し続けることで存在している空間なのだそうです。コポンチがどんどんサルになってしまったのは、サルに混じって記事を書いているうちに、知らず知らずのうちに、コポンチ自身もおじいさんの妄想の一部になってしまっていたからだそうです。
これだけ説明を聞いてもコポンチにはまだ飲み込めませんでした。
「それじゃあ、おじいさんはなぜサルにならないのですか?」
「それは、ここがわしの妄想の中の世界だからじゃよ。自分の妄想に取り込まれるほどわしは愚かではないよ。それにわしにはこの妄想をいつやめてもいいという自由があるんじゃよ。かれこれもう42年もここで妄想を広げておるが、やめたいと思えばいつでもやめられるんじゃよ」
「本当ですか?じゃあやめてみてくださいよ」
コポンチが言ったとたん、竹林も庵もサルたちも机も記事も、みんなおじいさんの鼻の穴に吸いこまれて、あたりには竹林に入る前の草地が広がっていました。
コポンチは大変驚きました。
「こ、これは……、もしやあなたは虚無を操ることが出来るのですか?もしやあなたがメタの賢人ですか?ブロゴスフィアを救う知恵をお持ちなんでしょうか?」
「いいや、わしは虚無なるものを操ることはできんし、メタの賢人では無いよ。それにしても何か訳ありのようじゃな」
おじいさんに聞かれるまま、コポンチはこれまでのいきさつをすべて話しました。するとおじいさんは大変興味を持った様子で、わしも一緒に行きたいと言い出しました。メタの森への道筋もおおよそ知っているから案内してやるともいってくれました。コポンチは大変喜んで、おじいさんの申し出を受けました。
おじいさんの話によると、メタの森へ行くにはここからいったん北に回って、辺境の無断リンク紛争地帯を掠めてネチケット墓地群の中を通り、正論港に出てからまた南下し、脊髄反射の沼を越えなければなりません。非常に危険な道筋のようです。
コポンチは尻込みしました。でもお城の雰囲気を思い出すと、逃げたら間違いなく指名手配されそうでしたから、多少危険でも行くしかないよなと、暗惨たる気持ちで決意を固めました。
その2へ続く
これ傑作です!
過去ログ云々のところは声に出して笑ってしまいました。
続編、楽しみにしています。
「他人の不幸は蜜の味」さんからまいりました。
おもしろかったですー。
ニヤニヤしながら読みました。
続編、楽しみにしてます。
僕は面白いというより美しいと思いました。むしろ、こういう物語が「ネタ」として右から左にながされるのはとても惜しいなどと思うのでした。
みなさん、ありがとうございます。また今日書きます。
LSTYさん
私は美しいものが大好きなので、頑張ります。
ネタとして右から左に流されたとしてもそれは周りの人がそういう「選択肢を選んだ」訳ですから、仕方のないことです。
でも無視されようがなんだろうが、私は物語を作る側ですから、いくらでもまた作ることが出来るんです。
メタネタベタの樹海で迷っていた私に、夢と希望と妄想を与えてくれるエントリだと思いました。
これで、やっと帰れます。 ありがとう。
いま、その3を書きました。