2005年07月26日

昔話 こぶ切除じいさま【ら行 わ行抜き】

むかしむかし、おおきなこぶ持ちのじいさまがいた。こぶがいつできたかは不明だ。こぶはじいさまの右頬に生え、動くたびにゆっさゆっさとなったが、じいさまは気にする風でもなく、陽気に生活していた。

ある日じいさまは山に出かけ、酒ひっかけてうとうと眠くなっていたが、気がつくとなんだか楽しげな拍子が聞こえてきたではないか。じいさまは気になってしまい、拍子の音のほうへと、よたよたと向かっていった。

ようやくついたと思い、じいさまが酔った目で覗くと、そこには大勢のお医者様が酒宴中だった。じいさまはとても幸せな気持ちで酒宴に混ざった。

「お医者様お医者様、この爺めも酒席に混ぜてください」
「どうぞどうぞ、ま、一杯やってください」

じいさまは酒が好きだ。いい気になってしこたま飲む。ちょうどいい気持ちになってきたとき、お医者様たちがじいさまのこぶが気になると言いだした。
「じいさま、そのこぶはどうしたのですか」
「酒とたばこは控えてください」
「血圧、とってみましょう」
「悪性だとまずい、切除しましょう」
「そうだ、オペだ、オペをしよう」
「手術箇所が脳に近いので局部麻酔のほうがいいかな」

瞬く間にじいさまは手術台に乗せられてしまった。じいさまは酔って気が大きくなって、医者ごときかかってこいやという気持ちだったので、別に気にする風もなく、手術を受けた。

「血圧は安定しています」
「術後の経過は良いほうですね」
「七日ないし十日後に抜糸します」
「酒とたばこは控えてください」
手術が無事に済むと、じいさまは化膿止めと痛み止めの薬剤がじいさまの手に。
じいさまもこぶには特別に愛着もなかったので、ただで手術してもらえたので得だったと思った。

じいさまは家につくとさっそく、友達に夕べの出来事を話した。じいさまの息が酒臭かったので、みな最初はガセ扱いしたが、じいさまのこぶがないのは確かなので、嘘ではないようだということで、この話はたちまち拡大していった。


さて、この話に影響された人の中に、もう一名、こぶ持ちのじいさまがいた。都合上、こぶ切除じいさまが「じいさまA」、もう一名が「じいさまB」と呼ぶことにしよう。

じいさまBはこぶのことが気になってしょうがなかった。悪性腫瘍ではないかと思っていたのだ。じいさまBのじいさまも、そのまたじいさまも、悪性腫瘍でこの世を去っていた。そういう経緯で、多くの治癒方法を試していた。

そこにじいさまAのこぶ切除の話である。じいさまBは息せき切ってじいさまAに会いに行き、山に入っていった。

じいさまBが山で待つと、またお医者様の宴がはじまっていた。
じいさまBはさっそく話しかけた。

「もし、お医者様…」
じいさまが仔細に話す事情が、お医者様を動かした。

「そうですか、悪性腫瘍が気になるのですな」
「CTでみましたが悪性ではないですよ」
「この後も悪化することはないでしょう」
「しかしこぶの重みで背骨が右に曲がって腰のゆがみが発生しています。もう一個こぶをつけて平衡を保つようにしましょう」
「酒とたばこは控えてください」

さっそくオペがはじまった。
「君、使用可能なこぶの数は」
「三つです」
「うむ、では最も良い状態のこぶで移植しよう」
「メス、Oマイナス、静注、縫合」

手術は成功した。じいさまBは左右の頬にこぶが付き、化膿止めと痛み止めの薬剤がじいさまBの手に。
じいさまBは前にも増して顔が重くなった。

しかし、じいさまBは幸福だった。こぶは悪性腫瘍ではなかったのだ。悪性腫瘍への恐怖がなくなった今、何も気にせずにすむ。こぶなど、また切除手術を頼めばよい。じいさまBは左右のほほを、いとおしげに抱きつつ、澄み切った笑顔で家路についた。

めでたしめでたし。
posted by ちんこ寺 at 20:44 | Comment(0) | TrackBack(0) | 昔話 b_entry.gif
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