2006年05月24日

ネバー・エンディング・ブログ・ストーリー6

前回までのお話

ネバー・エンディング・ブログ・ストーリー
ネバー・エンディング・ブログ・ストーリー その2
ネバー・エンディング・ブログ・ストーリー その3
ネバー・エンディング・ブログ・ストーリー その4
ネバー・エンディング・ブログ・ストーリー その5



■コポンチの帰還

 ネチケットの墓地を後にし、無断リンク戦線跡地を通り過ぎたコポンチと翁は、股ぐらの虚無がその存在を強烈にアピールしはじめたため、さらに旅を急ぎました。すると、地平線の向こうにやっとお城の姿が見えはじめました。さらに近づいてみると、何やら異変が起こっているようでした。お城の周りには無数のツタのような植物が、建物全体を取り囲むように複雑に絡みつき、このままではお城を突き崩してしまいそうな勢いでした。そしてこの謎の植物の周りにはナタをもった家来たちが必死になって除草作業をしていました。
 コポンチは聞きました。

「これは一体どうしたのですか?」

 お城の家来の一人が面倒くさそうにナタを振るいながら答えました。

「どうしたもこうしたもないわ。昨日一昨日あたりから、いきなりこんなツタのような植物が地面からふきだしてきて、手に負えんのだ」

「……これはトラックバックじゃな」

 謎の植物をしげしげと眺めていた翁がつぶやきました。翁の話によると、この植物はトラックバックという植物で、普段は一所に群生するような植物ではなく、せいぜい1本か2本がぽつんぽつんと生えているのが普通だということです。この植物がこんなに密集して生えたのは、かの有名な「スパム大虚脱」以来の異常事態なのだそうです。
 コポンチが感心して翁の話に聞き入っていると、先ほどの家来がいぶかしんで聞いてきました。

「ところでお前たちはお城に何のようで来たのかな?」

「僕はコポンチ・イャチッチと申しまして、女王陛下の命により、メタの賢人への使いを果たしてまいりました」

「そうか、ご苦労であった。すぐにお城に入りお目通りするように」

 そういって家来はまたナタを振るってトラックバックの削除に精を出しはじめました。



■虚無の恐怖と股ぐらの秘密

 コポンチたちがお城の中で再び案内を請うと、控えの間でしばらく待つように言われました。そこで暇をもてあましたコポンチは、かねて疑問に思っていたことを翁に聞いてみました。

「あの、前から気になっていたんですが、ブロゴスフィアが虚無に飲み込まれるとどうなるんですか?あと僕の股ぐらに現れた虚無はこの先どうなっちゃうんですか?」

「うむ、もしこのブロゴスフィアが虚無に飲み込まれたらどうなるか、それは考えるだけでもおぞましいことが起こるんじゃ。まずみんながみんなバカになる。もちろんわしも、君もじゃ。そしてみんな人の話を聞かなくなり、自分の好き勝手なことだけをべらべらとしゃべり、安易にレッテル貼りをしはじめ、この世は誤読と曲解の巷となるのじゃ。つまらぬ言いがかりで親が子を殺し、子が親を殺し、最後の一人になるまで殺し合いが続く、阿鼻叫喚の地獄が現れるのじゃ。そして君の股ぐらに現れた虚無は、その地獄の扉を切り開くスイッチのようなもので、もう半分開いてしまっておる。これが完全に開ききると、虚無がブロゴスフィアを覆いつくし、バカ丸出しになってしまうのじゃ。わしらはこれからお城のみんなと協力して、君の股ぐらをふさがなくてはならん」

「ふさぐ手立てはあるのですか?」

「一つだけある。それは……」

 翁が続けようとした時に、女王様のお使いがきました。御前会議の準備が出来たようです。コポンチと翁は、とりあえず広間に向かうことにしました。




■女王様と御前会議

 コポンチと翁が広間に着くと、玉座の女王様を中心に、文武百官が広間に勢ぞろいをしておりました。コポンチと翁は、女王様の前でひざまずきました。

「コポンチ・イャチッチ、ただいまメタの賢人への使いを終えて帰還いたしました」

「妄想の翁と申します。これなるコポンチ・イャチッチを助け、ともにメタの賢人にあってまいりました」

 女王様はうなづきました。そして、透き通るような美しい御声で語りかけてくれました。

「二人ともご苦労でした。して、メタの賢人は何と言っていましたか?」

「メタの賢人は、『自分はメタ・メタの賢人であり、ブロゴスフィアが虚無に飲み込まれることは自分には関心はない』と言っていました。彼はろくでなしの役立たずです」

 言うのを少しためらいましたが、これは言わなければならないと、コポンチは包み隠さずメタの賢人との会話の内容を話しました。

「まあ、なんと……。それではメタの賢人はメタ・メタの賢人を自称しており、全く役に立つ知恵をもらえなかったということなのですね」

「はい。こうなった上は私たちみんなで力をあわせて問題を解決するしかありません」

 広間にどよめきが広がりました。予想外の事態にみんな戸惑っているようでしたが、やがて声が上がりました。お城を出る前に過去ログ論争をしていた学者たちです。

「お待ちください女王陛下。こやつはでたらめを言っているに違いありません。メタの賢人がそんな役立たずなわけがありません。大方怖くなって途中で引き返してきて、適当な報告をしてごまかそうとしたのでしょう」

 コポンチは怒って言い返しました。

「あなたたちこそ過去ログを読む読まない問題が女王陛下の命令より大事だとか何とか言って何もしなかったじゃないか。下らない言いがかりはやめてください」

「だまれ、貴様の言っていることはすべて根拠がないではないか。女王陛下の命令より大事だとか何とかという台詞はわしらのうちの誰がいつ言ったのかのう?どうじゃ、証明できるか?それにわしらは何もしなかったわけではなく、貴様が遊びほうけている間に、ネタにマジレスするべきかしないべきか問題や、罵倒と批判の境界線問題や、〜なのはどちらなのでしょう問題を協議しておったのじゃ」

 学者先生たちの得意満面の顔をにらみつけながら、コポンチの心の中に暗い怒りがこみ上げてきました。この人たちはなんなんだろう。別にこの人たちが何を話そうと勝手だが、命がけで使命を果たしてきたものに対してこの傲慢不遜の恥知らずな態度はなんだ。この恐るべき厚顔無恥、恐るべき破廉恥。お前らは一体何をやった?ただサロンでダベってつまらぬ鼻の明かしあいや水掛け論を繰り広げていただけじゃないか。安っぽいプライドを保つために議論の真似事をしていただけじゃないか。
 コポンチが怒りに任せて何か言おうとした時、翁が口を開きました。

「これなるはメタの森に生えるメタの木の小枝にございます。このメタの森にしかおらぬ木は大変珍しい木でして、森とはいかなるものか、森はどうあらなくてはならないのか、そういう問題をメタ的な視点から語りかけてくる木なのでございます」

 翁が懐から木の枝を差し出すと、枝は森のあり方についてとうとうと持論を展開しはじめました。それを見て女王様は言いました。

「もういいでしょう。コポンチの言うことを信じましょう。そして学者たちに命じます。あなたたちは自分の次の就職先を議論して、その結果を明日までに報告するように」

 学者たちは強制的に広間から追い出されました。

「ときにコポンチ、メタの賢人が役に立たないと分かった今、虚無からブロゴスフィアを救うために、私たちは何をすればよいのでしょうか?」

 女王様の問に、今度はコポンチに変わって翁が答えました。

「おそれながら、まずこれなるものをご覧ください」

 そういうと、翁はコポンチのズボンをパンツごとずり下ろしました。広間に大きなざわめきが起こり、コポンチの羞恥心を猛烈に刺激しました。

「コポンチの股ぐらにあるこの穴は、虚無の実体化したものでございます。これは人々の心から虚無が満ち溢れはじめると、その時代の最もコンプレックスに溢れた人間の体にその入り口が現れます。そしてその入り口は人々の心の中の虚無、とりわけ体の一部に虚無が実体化した本人の心の中の虚無に連動して大きくなり、やがてすべてを包んで飲み込んでしまいます」

 ここまで言うと、言葉がいきわたったかを確認するように、翁は一息つきました。

「しかし、虚無が実体化してしまったからといってもう手遅れというわけではございません。この股ぐらの虚無を封じ込める手立てがあるのです。それは、コポンチ本人の心の闇を拭い去ってやることです。そうすれば、虚無は出口を失って、ブロゴスフィアを飲み込む前に再び封じ込められてしまうことでしょう」

「それは本当なのですか?」

 女王様がたずねると、翁はにっこりと笑って答えました。

「本当ですとも。42年前のスパム大虚脱の時にも巨大な虚無がこのブロゴスフィアを飲み込もうとしましてな。その時に虚無が実体となって現れたのが、この爺の鼻なのですじゃ」

 翁は若いころ、鼻が異常に大きいことにコンプレックスを持ち、かなり深刻に悩んでいたそうなのです。そこに虚無がつけこんできたのです。

「ですから、この爺めのいう風にしてもらえれば、虚無が巨大化するのを事前に防ぐことが出来るのですじゃ」



■コポンチ・イャチッチの克服

 広間では早速、翁の言うとおりに「コポンチを囲む会」が結成され、女王様も含めて車座になってコポンチを囲みました。そして、コポンチには自分のコンプレックスについて、つまびらかに語ることが要求されました。はじめは恥ずかしさで死にそうな気持ちだったコポンチも、みんなの真剣なまなざしを受けて、少しずつ心を開いて話し始めました。みんなの必死なのも無理もありません。一人の青年の短小コンプレックスが克服できるか否かが世界の命運を握っているのですから。

「……ええと、僕はずっと、男の子の大事な部分、っていうかその部分が、人よりずば抜けてちっちゃいのを、気にしているんです。それになんだか僕の名前自体が僕を侮辱しているみたいで名前をもう変えちゃいたいなみたいな妄想にとりつかれたこともありました。それに……」

 コポンチの胸の支えが取れるまで一通りしゃべり終えると、次は宮廷の文武百官が一人ずつコポンチに励ましの言葉をかける番になりました。

「その気持ちは同じ男として十分に分かる」
「大きさなんて関係ないわ、大事なのは愛情なんだから」
「おれはでかすぎて悩んでいるんだ。小さいほうがなにかと目立たなくていいぞ」

 百官は次々とコポンチに言葉をかけていきました。しかし百官は百人いるものですから、後ろのほうの人は言うことがなくなってきました。

「おまえは……、えーと、お前は俺より背が高い」
「お前はいいやつだ」
「うう……、犬が好きな人に悪い人間はいない」

 最後のほうになると、もはや何を言っているのか分からなくなってきました。しかし、コポンチにはそれでも嬉しかったのです。いままでこんなにたくさんの人が自分に暖かい言葉をかけてくれたことはなかったし、お城の偉いさんが一生懸命自分に話しかけてくれるなんてめったにあるものでもありません。こうして、コポンチの股ぐらの虚無は、少しずつその大きさを縮めていきました。そして、最後に女王様がコポンチに向かって宣言しました。

「私は、コポンチがこの国のみんなのために尽くしてくれたことを知っています。そして、それは体の一部が小さいことなど比べ物にならないほど尊いことです。私はそのお礼として、子孫繁栄のしるしであるところの、黄金で作らせたマメとソーセージをプレゼントしようと思っています」

 女王様の慈愛に満ちたお言葉がまことにかしこくて、コポンチは感激のあまり涙を流しました。鼻水も出っぱなしで泣きました。するとどうしたことでしょう。それまで股ぐらの大部分を占めていた虚無が、一気にしぼんでついには消滅してしまいました。そしてなんだかむずむずした感覚に襲われて、ふたつみっつと大きなくしゃみをすると、股の中から今までのものとは比べ物にならないくらい大きく立派なものがどどんとせり出してきたではありませんか。翁が思わず駆け寄りました。

「やった、やったようじゃの。これでようやく虚無を追い払えたようじゃ。よくやったぞ、コポンチ」

 女王様も興奮気味に御声をかけてくださいました。

「すばらしい、すばらしい活躍でした、コポンチ。あなたにはもう黄金のマメとソーセージは必要なさそうですね。それでは別の褒美を上げましょう。ブログの女王の名において、今日よりそなたコポンチ・イャチッチを、イカッデ公に封ずる」

 コポンチはあわてて片膝をついて命令を受けました。

「今日からあなたはコポンチ・イャチッチではなく、コポンチ・イカッデですね。やはり名は体を現さなくては」

 女王様はにっこりと微笑まれました。



■エピローグ コポンチ・イカッデのその後

 自分の心の中の虚無に打ち勝ちブロゴスフィアを救った功績により、イカッデ公に封ぜられたコポンチは、大きな屋敷と召使を何人も持てる身分になりました。そして、有り余るお金でネチケット墓地のお寺に寄付をしてあげたり、ネッタとマージ兄弟の供養に行ってあげたり、脊髄反射の沼のほとりに母子のお墓を立ててあげたりしました。また、コポンチは政治活動にも興味を持ち、今では奴隷解放運動の若き旗手として活動もしています。

 コポンチの生活は何もかも一変しました。

 それでも、コポンチにとって忘れられないのは、旅の途中でのさまざまな人々との出会いや別れ、悲しかったことや嬉しかったこと、その他のたくさんの思い出なのです。

 コポンチは、今でもたまに遊びに来てくれる妄想の翁と、お気に入りのテラスでお茶を飲みながら思い出話をするのが一番の楽しみなのです。イカッデ公・コポンチは今日も、テラスに立って昔をしのびます。雄大な股ぐらの部分を風になびかせながら……。



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2006年05月23日

ネバー・エンディング・ブログ・ストーリー その5

前回までのお話

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■母との別れ

 メタの森を出たコポンチたちは、もと来た道をたどってお城へ帰ることにしました。お城へ帰るには恐ろしい脊髄反射の沼をもう一度通らなければならないのですが、コポンチは全然怖くなく、かえって心が躍りました。なぜなら命の恩人である沼地の母に再び会えるからでした。先ほどあったろくでなしのメタの賢人に腹を立てていたコポンチも、沼地の母のことを思うと怒りも収まってくるように感じられました。

 沼地につくと、コポンチは早速沼地の母に挨拶をしようと思いました。しかし、いくら探しても沼地の母は見つかりません。

「どうしたんでしょうか?どこかへ出かけてしまったんですかね?」

 コポンチは翁に聞きました。

「ううむ、本当におらんのう……。ムッ、あれはなんじゃ?」

 翁が指差すほうを見ると、なんと沼の奥のほうで人が沈みかけているのが見えました。二人は急いで沼のぬめぬめした泥水をかき分けかき分け、おぼれている人影に近づきました。人影がはっきりとしてくるにつれて、コポンチの心に驚きと絶望が広がっていきました。沈みかけているのは、沼地の母でした。コポンチは思わず叫びました。

「母さん、何でこんなことに」

「あら、あなたもう戻ったの?……私ってバカねえ、ここの罵声には慣れてるつもりだったんだけど、ついうっかり脊髄反射で返しちゃったのよ。どうしちゃったのかしら?」

 沼地の母が話している間にも、沼からは容赦なく罵倒の言葉が噴出し続けました。

「ざまあ見ろババア、お前の息子はとんでもねえバカ息子だったぜ」
「ひいひい言いながらおぼれて死にやがった」
「あんなみっともない死に方したやつも珍しいよな」

「おだまり、このろくでなしども!あんたたちみたいなクズにあたしの息子の何が分かるって言うんだい」

 沼地の母は、はじめてあった時とはとはまるで違う恐ろしい形相であたり構わず罵りました。罵っている間にも彼女はどんどん沈んでいきます。もう胸の辺りまで沈んでしまいました。

「母さん、もうやめてください。母さんは優しかったじゃないか、僕を助けてくれたじゃないか、頼むから、そんなつまらないやつらの相手なんかしないで、戻ってきておくれよ」

 コポンチは沼の罵声を払いのけるようにして沼地の母の手を掴み、懸命に説得しました。幼い時に母と死に別れたコポンチにとって、沼地の母は忘れかけた母そのものでした。それを、こんなつまらない罵声のために失うなんてとても耐えられるものではありませんでした。

「ありがとうコポンチ。なんだかうちの子が戻ってきて話しかけてくれているみたい……。これでもう悔いはないわ。でも本当におかしいわね、何で私は今になって罵声に脊髄反射しちゃったのかしら?息子の悪口なんて今まで何回も聞いているのに、今日に限って感情のコントロールがきかなくって、怒りがこみ上げてきちゃったのよ。これももしかしたらあなたの言っていた虚無のせいかしらね。この暗くて冷たい気持ちが虚無なのね。さようならコポンチ、私が沈んでも絶対に怒っちゃダメよ。沈むのは私だけで十分なんだから……」

 そういうと、沼地の母は自分から手を離して、深い深い沼の底に沈んでいきました。
 コポンチの心の中に、暗く深い怒りがこみ上げてきました。こみ上げた怒りはコポンチの体の中をぐるぐるとのた打ち回り、腹の底のほうでぐるぐるととぐろを巻いてずっしりと居座り始めました。

「このろくでなしどもめ、ど腐れちんぽこ野郎、便所の底のこびりついたうんこみたいに惨めな根暗どもめ、くだ巻いてないで出てきやがれ、一人残らずぶち殺してやる!」

 コポンチは発狂したように手足をめちゃくちゃに振り回し、泥まみれになりながら泣き喚きました。そして体はどんどん沈み始めました。

「いかん」

 翁はとっさにコポンチに当身を食らわせて、気絶させました。するとコポンチの体は沈むのをやめ、少しずつ浮き始めました。気を失っていれば罵声も聞こえず、怒ることもないからです。そこで翁は、自分の妄想から生み出したサルたちにコポンチを担がせて、急いで沼を渡りました。



■虚無の台頭

 沼を越えてしばらくして、ようやくコポンチは意識が戻りました。なにやらまたぐらがスースー涼しくて、それで眼を覚ましたのです。そして、つらい現実を思い出しました。

「沼地の母はもう死んでしまったんですね……。それにしても何で僕にしたのと同じように沼地の母を助けてくれなかったんですか?」

「彼女は死にたがっていた。そう目で訴えていたんじゃ。だから手を出してやることが出来んかった」

「そういうものなんでしょうか……」

 コポンチは割り切れない気分で股をもじもじさせました。

「ときにどうしたのじゃ、さっきから股をもじもじさせて」

「いや、何と言うか、スースー涼しくてなんだか変な気分なんですよ」

 それを聞いたとたん、翁の顔つきが急に険しくなりました。

「なんじゃって?まずい、今すぐズボンとパンツを脱ぎなさい」

 コポンチは驚きました。あんぐりあいた口が懸命に戻ろうとしてもなかなか戻れないほど驚きました。でも翁の有無を言わさぬ口調と表情に、しぶしぶズボンとパンツを脱ぎました。

「やはり、これは……」

 翁はコポンチの股を覗き込んでうなりました。コポンチの股の、普段あるべき小さな小さな男性の部分があるところに、小さな小さな穴が開いているのです。コポンチは全身に鳥肌の波がザワザワッとさざめきたつのが分かりました。

「こ、これはどうなっちゃったんですか?」

「ふむ、これこそがこのブロゴスフィアに初めて姿をあらわした虚無そのものじゃ。よりにもよってこんなところに姿を現すとは」

 コポンチは泣きたくなりました。

「なんでわざわざ僕の股に姿を現さなくちゃいけないんですか?」

「虚無は常にこの表の世界と拮抗して存在しておる。しかし、そのバランスはきわめて不安定なものなんじゃ。少しバランスを崩すとすぐに虚無が現実世界に顔を出す。そしてそのバランスの崩れた最初の場所がお前の股ぐらなんじゃよ」

「ぜんぜん意味が分かりません」

「そうじゃろうな。しかしよく考えてみよ、君の股ぐらのものが極めて小さかったのは何でだと思う?この世のものにはすべて何がしかの意味があるんじゃ。君の股ぐらのものが極めて小さいのにも意味があった。つまり、虚無とブロゴスフィアのバランスの拮抗する点が君の股ぐらのものであり、そのバランスの拮抗が崩れ始めたがゆえに君の股ぐらのものは極端に小さくなってしまったのじゃ。そして君は短時間のうちにたくさんの経験をした。多くはこのブロゴスフィアのばからしさ、くだらなさの側面しか見せてくれなかったじゃろう。そして沼地の母の死。これらすべてが君の心の中でこねくり回されて完全にバランスが崩れ、虚無がこのブロゴスフィアに実体化し始めてしまったんじゃ。ここで虚無が実体化したということは、おそらく今ブロゴスフィア各地で虚無が顔をのぞかせているに違いない。急がねばならん」

 翁にまくし立てられ、事情がよく飲み込めないまま、コポンチは旅を急ぐことにしました。



■正論港の大船団

 訳の分からない理由で旅を急がされたコポンチは、かなりのハイペースで歩かされ、行きの半分の日程で正論港にたどり着きました。そしてこの正論港にも、虚無の恐ろしい影が迫っていたのです。
 正論港には港始まって以来の大船団が組織され、ちょうど今日が大船団出発の時期だったのです。船団を組織したのは、かの無断リンク大将軍でした。大将軍は無断リンク戦線の長い戦乱に幕を引き、AMLRF‐反無断リンク抵抗戦線‐の将軍を含めた多数の捕虜を連れて正論港に凱旋、今度は正論港を出航してスパム大公国への出兵を行うとのことでした。

 コポンチが正論港に入った時、ちょうど大将軍の凱旋式がありました。栗毛の馬から颯爽とと降り立って演台に向かった大将軍は、漆黒の大鎧に理論武装脛当てを足に巻きつけ、そしてしっかりと鎖につながれていました。コポンチは、ああやはりとため息をつきました。

「おじいさん、これはやはり虚無の仕業でしょうか?大将軍とその軍団は、もう助けることは出来ないのでしょうか?」

 翁は渋い顔で答えました。

「もう助けることはできん。少なくともわしらにはな。よいか、いったん文字の奴隷となったものが助かる術は一つしかないんじゃ。すなわち自ら奴隷になっていることに気づくこと。しかし、あの大将軍が自ら気づくとは思えん。酷なようじゃが、大将軍とその軍団、捕虜はこのまま出航して海の藻屑と消えるしかないんじゃよ」

 翁が話す間に、演台に立った元大将軍の奴隷演説がはじまりました。

「諸君、無断リンク大将軍たる余は、無断リンク戦線の賊徒どもを残らず平らげ、ブロゴスフィアに法と秩序を回復した。しかし、我々は新たな敵と戦わねばならない。スパムである。我々はブロゴスフィアの尖兵となってかのスパムどもを断固膺懲すべく……」



■ネッタの悲劇 マージの悲劇

 正論港の奴隷大船団の出航を見送る暇もなく、コポンチと翁はお城へと急ぎました。沼地の母のことといい、元大将軍の奴隷と奴隷軍団の死の出航のことといい、ブロゴスフィアがおかしな方向に突き進んでいることは明らかだったからです。

 旅路を急ぐコポンチの目に、何やら見覚えのある人影が見えました。マージでした。しかし様子が変です。何か魂が抜けたように呆然と突っ立つその姿は返り血でぐしょぐしょに濡れ、両眼からは血の涙を流していました。そして血のりでべとついた大きな石を両手で抱えているのでした。

「マージさん、どうしたんですか?」

 コポンチは思わず駆け寄りました。すると、マージの傍らにはついさっきまでネッタだった屍が横たわっていました。頭を何度も打ちつけられたらしく、顔でそれがネッタだとは判別が付かないほどにぐちゃぐちゃの屍でした。マージはぶつぶつとつぶやき始めました。

「わ、わからない。なぜ、なぜなんだ……」

 コポンチにも目の前の事態を全く飲み込めませんでした。マージとネッタは確かに口げんかの絶えない兄弟で、特にコポンチはネッタが嫌いでした。しかし、マージの弟を思う気持ちを知っていたコポンチにとって、目の前の事態は全く信じられないものでした。そして唖然として棒立ちになっているコポンチの目の前で、マージは自分の頭に持っていた石を落とし、頭を砕いて死にました。コポンチは涙がふき出してくるのを抑えることが出来ませんでした。



■再びネチケット墓地へ

 コポンチと翁は、マージとネッタの亡骸をネチケット墓地に運んで弔ってやることにしました。そして、以前お世話になったお寺に足を運びました。

 お寺は相変わらず古びていて、相変わらず陰気な小坊主さんが出迎えてくれました。しかし、小坊主さんの目には悲しみのほかになにか強い意志が宿っていました。コポンチが二人の兄弟の埋葬をお願いすると、小坊主さんはそれに応じてくれました。

「わかりました。そのお二人は私が責任を持って埋葬します。今日からこのお寺は、私が一人で守らなければなりませんから……」

「一人でって、ご住職はどうされたんですか?」

 コポンチは思わず聞きました。

「住職は本日亡くなられました。今朝起きてみると、もう……」

 コポンチと翁は驚きました。すると小坊主さんは二人を奥の間に案内してくれました。奥の間は相変わらず陰気で冷たい空気が張り詰めていましたが、そこには冷たくなった住職の遺体が安置されていました。

「住職は御自分と戦われました。そして、本日旅立たれました」

 小坊主さんの話によると、今朝起きて出て住職の世話をしに奥の間に行くと、たくさんの言い訳がつづられた例の包帯が住職の首を締め上げていたというのです。たしかに遺体を見ると、住職の首には、元々巻かれている包帯の上にさらなる包帯がグルグルに巻かれ、首を締め上げた跡がありました。首の骨は完全に折れていました。そして包帯には「この命は閉鎖します。皆さんどうもありがとうございました」と書かれていました。

「住職は立派な方でした。最期まで自分の心の弱い部分と戦われました。だから私も、たった一人になってしまったけれども、心を強く持ってこのお寺を大切に守っていこうと思います」

 住職は結果として虚無に敗れました。しかし、その弟子が志を継いで迫り来る虚無と戦うことでしょう。コポンチはこの新しい寺の主のためにも、何とか虚無を退ける手立てを考えなくてはと心に誓いました。そしてふと気づいてズボンとパンツを下ろしてみると、虚無は以前のぞいたときより比べ物にならないほどに大きな穴となって、コポンチの股ぐらの中で存在感をアピールしはじめていました。
 急がなくてはならない。そう悟ったコポンチと翁は旅を急ぎました。



その6へ続く
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2006年05月21日

ネバー・エンディング・ブログ・ストーリー その4

前回までのお話

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ネバー・エンディング・ブログ・ストーリー その3



■脊髄反射の沼とコポンチの危機

 正論港を出発したコポンチと翁は、何日も何日も歩いて、ようやく脊髄反射の沼にたどり着きました。この沼を越えれば、メタの賢人が住むメタの森はもうすぐそこです。しかし、コポンチは沼のかもし出す何となく薄気味悪い雰囲気に尻込みしました。沼には船も無ければ橋もかかっていません。ここを進むものは自分の足だけで進まなければならないのですが、この沼のそこの見えない濃い緑色のぬるぬるした水面といい、時折沼のそこから溢れ出す気色の悪い泡といい、とても率先して足を突っ込みたくなるような沼ではありません。
 コポンチが第一歩を踏み出しかねていると、翁がいつになく厳しい顔でたずねてきました。

「コポンチ、君はこの沼の秘密を知っているかね?」

「いいえ、知りません。何かあるんですか?」

「ふむ、この沼には恐ろしい秘密があっての、ここに足を踏み入れた旅人には、ありとあらゆる罵倒の言葉が沼の奥底から沸きあがって聞こえてくるのじゃ。もし旅人がその言葉に対して少しでも怒りを感じたり、言い返したりしたら、この沼は底なし沼になって旅人を飲み込んでしまうのじゃ。怒りというものは一旦心に芽生えると押さえがきかせづらい。沼はその人の心の弱さにつけこんで罵声を浴びせてくるのじゃ。じゃから今まで多くの者がこの沼に飲み込まれて溺れ死んでいった。よいか、くれぐれも沼の声に耳を貸してはならんぞ。軽はずみに答えたら最後、沼の奥底まで引きずり込まれてしまうぞ」

 コポンチは震え上がりました。しかし、この沼を越えなければメタの賢人に会うことが出来ません。そこで、勇気を奮って沼に入っていきました。
 緑色のくすんだ泥水に足を踏み入れるたびに生暖かいぬるぬるしたものが靴の間から入り込んできます。水面であぶくがはじけるたびにあたりに漂う腐った卵のような匂いはかいだだけで立ちくらみそう。コポンチがぜいぜい息を荒くしながら前を見ると、いつの間にかコポンチを追い抜いた翁が、自分の妄想から生み出したサルたちと楽しそうに踊りながら沼地を渡っています。妄想の世界を結界のように張りめぐらして、沼地の罵声から身を守っているのです。

 そうこうしているうちに、コポンチの周りから薄気味悪い罵声が沼の奥底から沸きあがってきました。

「また香ばしい電波が来ましたよ?」
「これはひどい」
「wwwwww」
「死ねばいいのに」

 コポンチはなるべく罵声を聞かないように、あれこれ別のことを考えながら、必死になって前に進みました。それでも罵声は容赦なくコポンチに襲い掛かります。

「この短小野郎」
「キンタマのちいせえ野郎だ」

 コポンチはカチンときました。自分の一番触れて欲しくない、もろくはかない部分が、ずたずたに引き裂かれたような気持ちになりました。心の中のほんの一点に出来た黒いしみのような怒りが、じわじわじわじわと、川の水が決壊していくように心を支配していきました。コポンチは術中にはまりました。前に出した足が沼の奥底のほうにズブズブと沈んでいきます。それでも怒りに我を忘れたコポンチは、怒りに震えながら沼地の声に向かって怒鳴り返しました。

「うるさいうるさい!キンタマのないやつにキンタマの小さい男の気持ちが分かってたかるか。どうせお前らなんて沼地でぶつぶつ言ってるしか脳のないやつらばっかりだろ。おまえらこそ死ねばいいのに。死ね死ね死んでしまえ!」

 一言話すごとにコポンチの体は沼地に沈んでいきます。もうコポンチは腰まで沈んでしまいました。それでもコポンチは何かに取り付かれたように罵るのをやめず、浮いている小石やら泥やらを手当たり次第に四方八方投げつけて、悪態の限りを尽くします。
 しばらくして翁が異変に気づいて戻ってくるのが視界の片隅に見えましたが、もう間に合いません。コポンチはついに完全に底なしの沼に沈んでしまいました。

 完全に沈んでしまってから、コポンチは我に返りました。ああ、自分はなんてバカなことをしてしまったんだ、緑色の泥水の中にうっすらと日の光が見えてきた、きれいだなあ、もうこれが僕の見る最期の景色なんだな。コポンチは生きることを諦めようとしました。その時、薄れ行く意識の中でコポンチは幼いころ死に分かれた母の幻を見ました。母は言いました。コポンチや、もうちょっと頑張りなさい、お前は心の優しい子だよ、あんな悪口を言うような子じゃないというのは母さんが一番よくわかってるんだからね。だから戻ってらっしゃい。まだやり残したことがあるでしょう……。

 気が付くと、コポンチは泥だらけになって対岸に横たえられていました。傍らには心配そうな翁の顔と、もう一つ別の顔がありました。

「あ、れ?僕はどうして……、ここは?」

 翁が答えました。
「ここは沼の対岸じゃ。この方が君を助けてくれたんじゃよ」

 翁の隣には初老の優しそうな女の人がコポンチを覗き込んでいました。その優しそうな顔にはどこか悲しみが入り込んでいるように見えました。コポンチは起き上がってお礼を言いました。

「あなたが僕を助けてくれたのですか。ありがとうございます」

「いいのよ。私はこのあたりでは沼地の母と呼ばれているの。本当の名前はもう忘れたわ」

 沼地の母が答えた声を聞いて、コポンチは驚きました。さっき幻で聞いた母さんの声だ、じゃあ僕が幻の中で聞いた母さんの言葉はこの人の言葉だったのか?
 コポンチの推測は当たっていました。沼地の母の話によると、彼女はコポンチが沈むのを見て、急いで駆けつけてコポンチを救いだしてくれたということです。沼地の母はかれこれ10年以上この沼地のほとりで暮らしていて、たまにここを渡る人を見つけては、旅の手助けをしてやっているそうなのです。そして旅人の間ではいつしか沼地の母の通り名で呼ばれるようになったらしいのです。

 一息つくと、コポンチは不思議に思いました。自分で抜け出そうにも抜け出せなかったあの沼の中から、非力そうな沼地の母がどうやって助け出してくれたのだろうと。そのことを聞くと、沼地の母は答えました。

「簡単なことよ。沈んでいく人に声をかけてあげるの。あなたはそんな人じゃないって。私は分かってる、本当のあなたは人の口汚く罵るような人ではないって。こういう風に言ってあげると、言葉の届いた人は我に返って、手を貸さずとも自分から浮かんでくるものなのよ。言葉の届かなかった人にはもう打つ手はないんだけどね。それで、あなたは自分の意志で浮かんできてくれたわけ」

「そうだったんですか……。本当にありがとうございました。ご恩は一生忘れません。ところで、沼地の母さんはどうしてこんな恐ろしい沼にいるんですか」

「それは、この沼を通る旅人に一人の犠牲者も出したくないからよ。私には一人息子がいたんだけどね、家を出て行ってこの沼に入り込んで、つまらない罵声に脊髄反射で答えちゃって、沼に沈んじゃったのよ。今でもうちの子はこの冷たい沼の底で眠っているわ。だから、うちの子が寂しくないように私がこうしてここにいてあげてるわけ。母さんはここにいますよ、いつでも戻っていらっしゃいって」

 沼地の母はつとめて明るく話してくれました。それでもコポンチたちには子を失った母の悲しみが痛いほど伝わってきました。



■メタの森のメタの賢人

 沼地の母にお礼を言って脊髄反射の沼をあとにしたコポンチたちはついにメタの森にたどり着きました。メタの森はとてもに変わった森で、立ち入るものに、森とはなんなのか、森はどうあるべきかをメタ的視点でとうとうと語りかけてくる木々によって構成されたメタ的な森なのです。たくさんの木々に聞いてもいないメタ講座を聞かされながら、こんな森に住んでいて平気なメタの賢人とは一体どんなすごい人物なのだろうと、コポンチは期待に胸を膨らませました。

 しばらく森を探検していると、やがて小さなバラック小屋が見つかりました。ここがメタの賢人の住処に違いありません。コポンチたちは喜び勇んでメタの賢人のドアをノックしました。

 とんとん。

「どうぞ」

 中から返事が聞こえました。早速入ってみると、壁一面に書棚が張り巡らされ、それに押し潰されそうにして小さな机と椅子が部屋の真ん中にちょこんと置いてあり、そこにメタの賢人が座って一心不乱に書き物をしていました。
 コポンチは早速用件を切り出しました。

「はじめまして。私はコポンチ・イャチッチと申しまして、女王陛下の命令により、メタの賢人に虚無からブロゴスフィアを救う知恵を聞きに参りました。どうかこのブロゴスフィアを救うためのお知恵をお貸しください」

 すると、メタの賢人は顔を上げ、鼻で笑いながら言いました。

「あなたは思い違いをされている。私は世間で言うところのメタの賢人を観察するメタ・メタの賢人なのですよ。私の専門はメタの賢人の観察であって虚無なんちゃらがブロゴスフィアを飲み込む飲み込まないなんて関心ありませんね」

 コポンチは大変混乱しました。

「え?それじゃあ、あなたはメタの賢人じゃないのですか?」

「いいえ、私は確かに世間でメタの賢人と呼ばれています。しかし本当の私は世間でイメージされるところのメタの賢人という現象を観察するメタ・メタの賢人なのですということを言っているのです」

 コポンチはますます混乱しました。

「ちょっとまってください。あなたはメタの賢人だけれどもメタの賢人じゃないということですか?」

「そうではありません。さっきから言っているように、私は世間からメタの賢人と呼ばれていますが、実際は私がメタの賢人と呼ばれている現象を観察しているメタ・メタの賢人だといっているのです」

 話が一向に前に進みません。コポンチはこまりはてていいました。

「それじゃあ、あなたはブロゴスフィアを虚無から救う知恵をお持ちでないんですね?」

「いいえ、そうではありません。虚無がブロゴスフィアを飲み込むとすればそれはメタ・ブロゴスフィアというべきであり、それは私の研究対象が増えることを意味しています。ところで、あなたは虚無がブロゴスフィアを飲み込もうとしているところを実際に見たのですか?」

 こう聞かれると、コポンチは言い返せませんでした。確かにお城で女王様に言われて何となくそう思っただけで、コポンチ自身が見たわけではありません。コポンチが困り果てていると、翁が助け舟を出してくれました。

「確かに虚無そのものは見えぬ。しかしわしはここ最近ブロゴスフィアの人々の心の中の虚無が大きくなってきているのをはっきりと感じ取っておる。女王の言っていることはあながちでたらめではないぞ。それにブロゴスフィアが虚無に飲み込まれたら、お前さんのメタの賢人観察とやらもできなくなるぞ」

「感じ取るなどという感覚的な言葉を使われても分かりません。それに虚無にブロゴスフィアが飲み込まれる事と私の研究が出来なくなることのつながりが分かりません。私はどんな問題にもメタ的視点で観察するだけですから、世界がどうなろうと私には何の関係もありませんな」

 コポンチはムッとしました。

「それじゃあ、あなたはメタ・メタ視点で観察が出来れば、この世界に住む人々はどうなってもいいというんですか?」

 メタの賢人もといメタ・メタの賢人は乾いた声で言いました。

「ええ、構いませんよ。ただ観察する対象が減ることは悔やまれますが……」

 メタ・メタの賢人のそっけない、あまりにそっけない他人事のような言葉を聞いて、コポンチの心の糸のどこかが、ぷちんと切れました。この人は何があってもただメタ視点で観察して余裕ぶっこいていたいだけなんだ。こんな人に聞いても問題が解決するはずがない。コポンチはメタ・メタの賢人に投げつける次の言葉を捜しました。そして、自分の乏しい語彙の海を引っ掻き回してひっくり返して洗いざらいぶちまけて探して、やっとメタ・メタの賢人に投げつける次の言葉が口から飛び出しました。

「お前はろくでなしの役立たずだ!」

 言い放つとコポンチはさっさと外に出て行ってしまいました。翁も強いて止めませんでした。



■新たな決意

 さてメタ・メタの賢人の家を飛び出したコポンチに翁が尋ねました。

「コポンチや、気持ちは分かるが、これからどうする気じゃね?」

 コポンチは答えました。

「もともと見も知らない人に自分たちの問題解決のために知恵を借りようとしたのが間違っていたんです。女王様に正直にメタ・メタの賢人は役立たずでしたと言いに行きましょう。そして僕たち自身で解決策を編み出しましょう」

「そうじゃな、それがいい」

「ところで、気になったんですが、本当にブロゴスフィアは虚無に飲み込まれようとしてるんですか?僕は直接見たわけじゃないから本当なのかなあって疑問に思っちゃって」

「本当じゃ。君は気づかなかっただけでその予兆を見ているんじゃよ。たとえば正論港の奴隷を何人も見たじゃろう?あれは昔はそんなにめったに見られるものではなかったんじゃよ。最近になって急に数が増えおった。虚無が人の心から忍び寄っている証拠の一つじゃよ。気をつけないと虚無はあっという間にブロゴスフィアを覆いつくす。急がねばならん」

 こうして決意を新たにしたコポンチと翁は、メタ的に話しかけてくる森の木々の枝をへし折りながら、女王陛下のお城を目指してメタの森を後にしたのでした。



その5へ続く
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ネバー・エンディング・ブログ・ストーリー その3

前回のお話

ネバー・エンディング・ブログ・ストーリー
ネバー・エンディング・ブログ・ストーリー その2



■ネッタとマージの兄弟げんか

 ネチケット墓地群のかわいそうなお坊さんたちのお寺を後にしたコポンチたちは、次の目的地である正論港を目指して出発しました。しばらく歩いていくと、道の途中で2人の男が何やらもめているようです。コポンチたち(主にコポンチ)は気になって、思わず近寄ってしまいました。
 男たちはコポンチたちに気づく風も無く口論をしています。

「だから、いくら兄弟だからって、死ねばいいのになんて滅多に言うもんじゃないよと言ってるんだよ。何でお前はいつも話をはぐらかすんだネッタ?」

「マージ、ネタにマジレスするなんてマジでかっこ悪いぜ。兄弟なんだからよ、そんなちいせえこと気にすんなよ」

「何回も言わせるなネッタ。俺が言ってるのは、たとえ冗談でも人に向かって死ねというようなことは言うなといってるんだ。お前がいくらネタだネタじゃないとふざけた言い訳をしたところで傷つく人間は傷つくんだよ。正直俺は傷ついたぜ」

「うっせえバカ」

「何をっ」

 見かねてコポンチが止めに入りました。

「ちょっと待った、ほら、二人とも手を離して……。一体どうしたのですか?こんな道端で喧嘩なんかして」

「あ、あれ……、ああそうか、いやすみません、道のど真ん中をふさいじゃって……」

 マージが答えました。マージの話によると、マージとネッタは兄弟なのですが、マージからすると弟のネッタの態度が折に触れてシャクにさわり、ついつい小言を言ってしまうのだということでした。ネッタはマージが話している間中、「ネタニマジレスカコワルイ」とか「そんな釣りに引っかかるか」とか、さかんに文句を言ってはどやしつけられていました。

 マージの話によると、マージとネッタは早くに両親をなくして身寄りが無く、二人で力をあわせて生きてきたのだそうです。ところが、なぜかネッタだけ年を経るにつれて虚栄心が強くなり、ネタだの釣りだのと人を見下して喜ぶ癖が付いてしまったそうなのです。マージは、これも自分の教育が悪かったのだと、ひどく後悔している様子でした。
 コポンチはマージに心から同情しました。

「そうですか……。お兄さんも苦労が多いんですね」

 コポンチがマージと話し込んでいると、ネッタが歯をむいて怒鳴りつけてきました。

「おい、ギャラリーが口出すなよバカ。くだらねえネタにいちいち反応してんじゃねえよ。半年ROMってろこの電波野郎」

 コポンチは非常に気分が悪くなりました。寝不足というのもありますし、何よりもネッタの立ち居振る舞いがどうも苦手でした。そこでコポンチは関わりあうのをやめて先を急ぐことにしました。後ろからは再び兄弟の果てしない言い争いの声が聞こえはじめました。



■正論港の奴隷船

 ネッタとマージの口げんかがもうすっかり聞こえなくなって、さらにしばらく歩いていくとブロゴスフィア最大の港町である正論港に着きました。翁の話によれば、正論港は理屈水揚高、取引高ともに世界1位のどうどうたる港だということです。ここから出荷された理屈は世界中の理屈好きの装飾品としてさまざまな品物に加工され、流通し、もてはやされ、飽きられ、捨てられて海に戻り、再び正論港に舞い戻ってくるのだそうです。

 今まで戦場やら墓地やら、あんまり居心地の良くないところばかり通っていたコポンチにとって、活気に満ちて東西の珍しい品物溢れる正論港は夢のようなところでした。市場には正論ティーに正論白磁、正論経典、それになんとあの大将軍の理論武装脛当てと同じようなものまでありました。交易所では正論家の貿易商がお互いの正論をぶつけ合いながら活発に取引をし、酒場では正論好きな船乗りや荒くれ者たちが正論ビールを飲みながら、時には正論を応酬し、時には正攻法の喧嘩を繰り広げる始末。世界一理屈が好きな海の男たちの溜まり場となっていました。

 しばらく港町をあるいて見物していると、たまに鎖につながれた人たちを目にすることがありました。コポンチは翁に聞きました。

「あの、たまに鎖につながれて歩いている人がいますけど、あれってなんなんですか?」

「ああ、あれは文字の奴隷じゃよ。大きな声では言えんが、ここ正論港では奴隷貿易も盛んに行われているんじゃよ」

「奴隷なんですか?なんだかずいぶん偉そうな人たちのように見えますけど」

「確かに、不思議に思うのも無理はあるまい。あの奴隷たちは自分たちが鎖につながれて奴隷になっていることに気づいていないんじゃよ。だからあんな鎖につながれながら、したり顔で街中を歩けるんじゃよ」

 コポンチはなんだかよくわからない気持ちになりました。あんな鎖をつながれて気づかないなんていうことがあるんだろうか?そんなことがあるわけが無いと思いました。そんなコポンチの気持ちを見透かすように、翁は話を続けました。

「人間には見たくないものは見えないものなんじゃよ。とくにこのブロゴスフィアでは見たくないものを見えないことにして済ますのは簡単なことじゃからの。意識的であれ無意識的であれ、見たくないものを見えなかったことにしてしまうクセがつくと、すぐに文字の奴隷に転落してしまう。とくにこの正論港ではな」

「どういうことですか?僕には全然意味が分からないですよ」

「つまり、ここ正論港では普通よりたくさんの正論に触れることが出来て、その理屈を誰でも気軽に借りることが出来る。しかしそれが奴隷転落への落とし穴なんじゃ。正論を吐くのは気持ちいいじゃろう?だからみんな自分の本当の気持ちを深く考えようとせず、ついつい居心地のいい借り物の正論に頼りきるようになってしまうのじゃ。本当の自分はこういう風に思っている、でもお前は間違っているといわれるのが怖い、だから無難な正論を借りてとりあえずしゃべっとけという心が、やがて依存心を生み出すのじゃ。そしてひどいのになると、自分の感情を理屈で固めて正当化し、正論めいたものをこねくり回すようになる。こうなるとうわべを取り繕うのに精一杯になって字面の解釈のみに目が行くようになり、人の心の動きが見えなくなる。そうなると鎖につながれているのにも気づかず、正真正銘の文字の奴隷に転落してしまうんじゃ」

「ううん、難しいですね。分かったような分からないような……。ところで、その奴隷たちはどうなるんですか?」

「うむ、奴隷たちは自分たちが奴隷になったことに気づかないまま奴隷船に乗せられて沖に繰り出すんじゃ。船の中は奴隷たちの華やかなサロンになっており、喧々諤々の大激論、正論まがいと自己正当化の坩堝になっておる。なにしろ彼らは自分たちが奴隷になっていることに気づいていないし、おしなべてプライドの高い気難し屋ばかりじゃからの。そこでころあいを見計らって船底の弁を抜き、奴隷ごと船を沈めるんじゃよ」

「ええ?なぜそんなひどいことをするんですか?」

「それは、奴隷たちの繰り出す理屈は、海に沈むとやがて新しい理屈となって海中を泳ぎ回り、やがて港に水揚されて、正論港の水揚高に貢献することになるのじゃ。聞くところによると、正論港の水揚高の半分近くがこの奴隷たちの命でまかなわれているとの事じゃ」

 コポンチは大変なショックを受けました。

「狂っている、こんなばかげたことがあっていいのでしょうか?」

「確かにあってはならないことじゃ。しかし奴隷たちがいなければ正論港の今の繁栄は無いんじゃよ。コポンチや、物事の本質を見失ってはいかん。正論正論といったところで、結局自分がしっかりしていなければ何も見えていないのと同じことなんじゃよ」

 翁は優しく諭してくれました。しかしコポンチの心の中は割り切れない気持ちでいっぱいになり、いまにも破裂しそうな気持ちになりました。この正論港には、巨大な虚無が積もり積もっているようです。もしこんなものがブロゴスフィアをすべて丸呑みしてしまったら……、そう思うと体の奥から震えが伝わってきて、今にも歯がガチガチ鳴りそうです。こんなばかげたことをやめさせるためにも、はやくメタの賢人に会いに行かなくてはと、コポンチは決意を新たにしたのでした。



その4に続く
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2006年05月20日

ネバー・エンディング・ブログ・ストーリー その2

前回のお話

ネバー・エンディング・ブログ・ストーリー


■無断リンク戦線の大将軍

 妄想の翁の案内を得たコポンチは、庵から北へ向かい、無断リンク紛争地帯に足を踏み入れました。この地域は2000年の長きに渡って紛争が絶えない地域ですから、ところどころで硝煙の匂いが立ち込め、いたるところでときの声や砲声が聞こえてきます。コポンチは金玉が縮み上がる思いでしたが、もともと小さいのでこれ以上縮むことはありませんでした。

 コポンチたちは、こんな戦場を自分たちだけでうろうろするのは危険と思い、この方面を統べる大将軍に助力を乞うことにしました。

 さっそく大陸軍の大本営にある大テントをくぐると、大テーブルにかがみこみながら大地図をにらみつけ、大戦略を練っている大将軍に会うことが出来ました。大将軍はコポンチたちを見ると、大将軍らしい大度量を見せて大歓迎の言葉をかけてくれました。

「やあやあ、よくこられた。余が無断リンク大将軍である。我が軍は無断リンク禁止を叫ぶ賊軍を討伐し、ブロゴスフィアの法と秩序を守るものである。諸君の事前のお手紙なしの訪問は、ブロゴスフィアのリンクの根本原理をよく理解しておられる。歓迎しますぞ」

 大将軍のいでたちの立派さといったら、くろがねの大鎧に身を包み、差したる刀は一丈にも及ばんとする堂々たるものでした。そしてその脛当て(すねあて)の分厚さといったらありません。コポンチは思わず聞きました。

「大将軍閣下。閣下の脛当てはなぜそんなに分厚く重たそうなのですか?」

「うむ、この脛当ては賊どもの汚い罠からわが身を守るためのものじゃ。よいか?賊どもは正面から当たっても、わしの正当な主張にかなわぬと知っておるから、下らぬ揚げ足ばかり狙ってきおる。そこで、わしの足は分厚い脛当てで常に理論武装しておるのじゃ」

 大将軍の言うとおり、脛当てはただ分厚いばかりではなく、精巧な理論武装に満ち満ちていました。つまり「あなた個人のことを言っているわけではありません」「〜なのはどちらなのでしょうか?」「みんなとは具体的に誰とだれのことをさすのですか?」などの勇ましい言葉が大将軍の脛に満ち満ちていて、もし賊どもが揚げ足を取りに来たならば、すぐさまその言葉たちが敵を取り囲み、大将軍は窮地を脱することが出来るという寸法です。

 コポンチがなかばあきれ、なかば感心していると突然、伝令がテントに駆け込んできました。

「申し上げます!御挨拶の森に新規サイト3、アクセス数80が進軍、森に無断リンク禁止の陣を張っておりまする!」

「よぉうし、出たな賊どもめ。我がアクセス50000で取り囲み、森ごと焼き払ってくれるわ、がはははは!」

 大将軍は大いに興奮し、勇躍して刀を引っこ抜き、おっとり刀でテントから飛び出していきました。

 コポンチたちはテントの中に寂しく取り残されてしまいました。



■AMLRF‐反無断リンク抵抗戦線

 大将軍に置いてけぼりを食ったコポンチたちは、仕方なく別の将軍に助けを乞おうとしてある陣営に出向いたところ、問答無用で捕まってしまい、将軍の前に引き出されてしまいました。

 将軍はコポンチたちに言いました。

「貴様ら、挨拶もなしに人の陣営に入り込むとは、無断リンク大将軍のスパイであろう。どうだ、申し開きできるか」

 コポンチは必死で身の潔白を説明しました。すると将軍も少し落ち着きを取り戻しました。

「なるほど、君たちはスパイではないんだね?それにしても君らはものをしらなすぎだな。我々はAMLRF‐反無断リンク抵抗戦線‐の闘士なんだよ。そこに挨拶なしにきたら怪しまれるのは当たり前だろう。だいたい挨拶なしに人のサイトにリンクを貼るなんていうのは人の家に土足で足を踏み入れるような行為であり……」

 AMLRFの話は延々と続きました。コポンチがうんざりしながら改めてぐるりを見渡すと、無断リンク大将軍の陣営と比べてみすぼらしさが目立ちました。まず士卒の数がまるっきり足らず、説得力のある武器も余りありません。鎧も貧弱で、大将軍の脛当てのような理論武装すら満足にしていません。また、ここの将軍のみすぼらしさといったらありません。擦り切れた軍服に身を包み、いつも神経質そうに無断リンクのチェックをしていて、はたから見てちっとも心休まる暇もなさそうです。そしてどれだけ神経質にチェックしても、将軍のテントには情け容赦なくリンクの矢がガンガン刺さって来て、洪水を戸板一枚で防いでいるような心もとなさなのです。

 将軍の話はまだまだ続きます。コポンチとしては別にどうでもいいじゃないかと思うのですが、立場上我慢して聴かなければなりません。
 そこにまたもや伝令が駆け込んできました。今度の伝令は矢傷刀傷でぼろぼろになって息も絶え絶えです。

「申しあげます…、無断、リンク、大将軍の軍、およそ50000、ご挨拶の、森を、焼き払い、御味方、全滅……。首級80を、引っさげて、こちらに向かい、進軍中……」

 そういい終えると、哀れな伝令はその場に崩れ落ちました。
 将軍は恐怖しました。

「いかんいかんいかんいかん。このままではここも皆殺しだぞ。引き上げろ、引き上げじゃ」

 将軍は叫びながら逃げ出しました。士卒もチリヂリになって逃げていきました。コポンチたちはまた置いてけぼりを食いました。それどころか悪鬼のごとき大将軍がもうすぐ攻め寄せてきます。コポンチたちはあわてて逃げ出し、多少危険でも長居せずに戦場を突っ切ろうと決めたのでした。



■ネチケット墓地群とお寺の秘密

 悪夢のような紛争地帯を命からがら抜け出したコポンチたちは、ネチケット墓地群に入りました。ここは普及できなかったネチケットのお墓がたくさん並んでいる墓地で、卒塔婆には普及できなかった無数のネチケットの戒名が書かれています。

「故免徒必須居士 享年1週間 無断リンク大将軍ニ焼キ払ハル」
「無断淋苦禁止院 享年3ヶ月 無断リンク大将軍ニ焼キ払ハル」
「著作権無視居士 享年2ヶ月 無断リンク大将軍ニ焼キ払ハル」

などなど、数え切れないほどの卒塔婆が、月夜の光に照らされて、寂しげに、悲しげにたたずんでいます。

 コポンチは夜の墓場が不気味でたまりませんでしたが、翁の勧めもあって、お寺に一晩とめてもらうことにしました。

 お寺は墓地のはしっこにずいぶんと寂れた様子でたたずんでいました。コポンチと翁が挨拶に行くと、寺の小坊主さんがお話を聞いてくれました。小坊主さんはずいぶんとしっかりした調子の落ち着いた子供でした。でもどこかしら寂しげに見えたのは、月夜の墓地でのであいだったからでしょうか。

「無断リンク紛争地帯からこられたのですか……。それは難儀だったでしょう。どうぞ、当山をお使いください。……ただし、奥の間は絶対に除かないでください」

 翁が答えました。

「あい分かった。それでは今晩よろしくお願いいたします。ときに、お寺のご住職にも挨拶をしたいのじゃが」

「ご挨拶には及びません。住職はただいま所用で出かけておりまして……」

 小坊主さんは相変わらず暗い表情で答え、部屋まで案内してくれました。

 部屋に落ち着くと、コポンチはさっき小坊主さんの言った「奥の間」が気になって仕方なくなりました。ふすまを隔てたすぐそこが奥の間なのですが、なにか気配がしてたまらないのです。コポンチは我慢しきれなくなり、翁の止めるのも聞かずにふすまをほんの少し開けて、奥の間をのぞき見てしまいました。

 するとどうでしょう。月明かりでかすかに見えるがらんどうのような部屋には、包帯でぐるぐる巻きになった人のようなものがうずくまっています。部屋には包帯とたたみの擦れるかすかな音と、小さな唸り声だけが、しゃしゃ、しゃしゃ、うー、ううー、と響きます。コポンチは恐怖に震えました。

「見ましたね」

 後ろで暗い声が聞こえたので、コポンチと翁は飛び上がりました。

「な、な、なんなのですか、これは?」

 コポンチが震えた声で問いただすと、小坊主さんが静かに答えました。

「あそこにいらっしゃるのが、当山の住職でございます。あのような姿を誰にも見られたくないとお望みだったので、今日まで隠していたのですが……。お二人には驚かせてしまい、大変申し訳ございません」

 小坊主さんが説明するには、このお寺の住職は、数年前にあらぬ疑いをかけられて、無断リンク大将軍に寺を焼き討ちされ、大やけどを負ったとのことです。それ以来、住職は体中包帯だらけですごさなければならなくなり、さらに包帯に変な文字が次から次へと浮かんできて、恥ずかしさと恐ろしさのあまり気が狂い、奥の間に引きこもってしまったということでした。

 コポンチは小坊主さんにお願いして包帯の文字を見せてもらいました。

「なになに……『私がこれから書くことはあくまで一般論であり、別に揶揄しているわけではないし、もちろん特定の個人を誹謗中傷することを目的とするのではありません。また、ここに書くことは基本的にネタなので、そんなこと分かってるよバカとかお前は間違っているとか真剣さが足りないとか、そういうコメントは一切お断りします。真に受けないでください。つまり私が言いたいのは俺の寺を焼きやがって俺の体を焼きやがってあのくされ将軍がということであり、この怒りの表明は自戒をこめてのことです。追記:この記事はあくまでもメタエントリーであり、特定個人を攻撃するための記事ではありません。念のため。未熟者の若輩者ですが、なにとぞよろしくお願いいたします』……なんだこりゃ?」

 ポコンチは目がぐるぐる回る思いがしました。

「これって多分、大将軍に寺を焼かれて大やけどを負わされた悔しさを言いたいだけですよね。なんなんですかこのくだらない言い訳の数々は」

 小坊主さんはコポンチの問には答えず、こぶしを固くしてじっとうつむきました。膝の上のこぶしには、ポタッ、ポタッと大粒の涙が落ちました。

 背中を震わせ、石のように固まって正座する小坊主さんの肩に手を置いて、翁は言いました。

「コポンチや、君はどうしてこの小坊主さんが涙を落とすのか分かるかね?どうしてご住職の包帯に、こんなに多くの言い訳の言葉が浮かび上がってきているのか分かるかね?いいかい、この包帯に長々と言い訳が浮かびあがるのは決してこの方のせいばかりではない。また、すべてを大将軍のせいにして片付くものでもない。一人の人間ににここまで悪夢を見せ、狂態を演じさせるのは何か?それこそ人の心に巣食う虚無そのものではないかね。ご住職を責めてはならん。責めるべきは人にこのような狂態を演じさせる虚無そのものであり、わしらの旅の本当の目的は、そういうおぞましいものと戦う術を見つけることではないのかね」

 翁の優しく諭す言葉に触れて、小坊主さんはとうとう泣き崩れました。その晩、小坊主さんは泣いて泣いて泣き続けました。コポンチは翁の言葉と小坊主さんの悲しみに打ちひしがれて一睡も出来ませんでした。そして眠れぬ夜の間中、翁の言葉をかみしめるように、この旅の本当の目的について、ずっとずっと考え続けました。



その3に続く
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2006年05月18日

ネバー・エンディング・ブログ・ストーリー

原案:弁償するとき目が光る‐ネバーエンディング・ブログ論争の果て、または「で、どうするの?」という素朴な問い、あるいは危機的状況



■プロローグ コポンチ・イャチッチの旅立ち

 コポンチ・イャチッチは夢の世界「ブロゴスフィア」で暮らす、体の一部分がとても小さいだけの、ごく普通の青年です。ある日コポンチは、畏くもこのブロゴスフィアをお治めになられている大君、ブログの女王様から突然お呼びがかかりました。コポンチは大変驚きました。彼は体の一部分がとても小さいだけの、ごく普通の青年なのです。そんなごく普通の青年に、畏くもブロゴスフィアをお治めになられているブログの女王様からお呼びがかかるとは一体どうしたことでしょう。

「これは大変だ。急いで支度をしてお城へ向かわなければ。しかし何でこの僕が呼ばれるんだろう?……ハッ、まさか、僕のがどれだけ小さいのかをお城のみんなで賭けてるんじゃないだろうな。どうしよう、やだなぁ……」

 コポンチはいかにも平凡な青年らしいコンプレックスを胸に秘めながら、おずおずとお城に向かいました。



■女王陛下の憂鬱

 お城に着いたコポンチ・イャチッチは、早速お城の広間に通されました。さあ定規でも分度器でもノギスでも何でももってこいやと覚悟していたコポンチでしたが、広間についてみるとその暗く重苦しい雰囲気から自分の想像が外れていることにようやく気づきました。

「コポンチ・イャチッチ、よくきてくれました」

 ブログの女王様がじきじきに御声をかけてくださいました。その透き通るような美しい御声は心なしか元気がなさそうに聞こえました。

「コポンチ、あなたを呼んだのは非常に重要な役目を申し付けるためなのです。いいですか?現在、ブロゴスフィアは大きな虚無に飲み込まれようとしています。この危険を回避するためには、はるか西方、メタの森に住むメタの賢人の知恵を借りなければなりません。そこであなたに、メタの賢人への使いとなって、この世界の窮状を訴え、知恵をもらってきて欲しいのです」

 コポンチは驚きました。

「お言葉ですが、なんで僕なんですか?」

「あなたでなければいけない訳があるのです。さあ、行きなさい。あなたはこの世界の行く末を担っているのです。これは女王命令です」

 女王様が優しく諭すように言われると、屈強な兵士がコポンチを取り囲んで睨みを利かせてきました。コポンチは生命の危険を強く感じたので、襟を正して丁重な態度で女王命令を受けました。



■過去ログ学者の過去ログ論争

 さて命令を受けたのはいいものの、コポンチにはメタの賢人がすむメタの森とやらがどこにあるのか皆目見当も付きません。はるか西にあるだけでは何も分からないのとそう変わらないのです。
 そこでコポンチは、お城の学者先生に聞こうと思い、お城のサロンに向かいました。
 サロンでは学者たちが活発な議論を戦わせている最中でした。コポンチは聞きました。

「こんにちは。僕はコポンチと申しまして、女王様の命により、これからメタの森に行くのですが、メタの森はどこにあるか教えてください」

 学者の一人が振り向きざまに答えました。

「うるさい。今大切な議論の最中なんじゃ。貴様の下らん用事など聞いている場合ではないわ」

 コポンチはムッとして聞きました。

「女王命令より大切な議論とはなんですか?」

「過去ログを読むか読まないかじゃ」

 唖然とするコポンチをよそに、議論は続きます。

「……そもそも過去ログを読めといわれても、長年続けているブロガーの過去ログは何万文字にも達し、コメントも含めて全部読み返すなどというのは不可能に近いではないか?であるからわしは過去ログなど読まずに目の前の記事を読むだけで良いということをさっきから言っておるのじゃ」

「それは話のすり替えですな。私が言っているのは現在の記事と関係のある過去ログを読めということであり、すべての過去ログをあされといっているのではありません。また、過去ログもろくに読まないで記事を判断することはブロガーへの冒涜であり……」

 コポンチはうんざりしてさっきの学者先生に聞きました。

「先生、先生自身は読者に過去ログを読みたいと思わせるような、面白い記事を書いているのですか?」

「もちろんじゃ。君も失礼な男じゃな。よいか、わしは過去ログに関する記事を622個も書き、同じくブックマークのコメントを1519もつけているのじゃ。わしのブログとブックマークのコメントを全部読めば、貴様も過去ログ読む読まない問題の専門家になれるぞ」

 コポンチは驚きあきれました。これでは女王様もお城の学者を頼りにしようとは思わないだろうなあと、女王様に対して心より同情申し上げました。



■竹林の庵とおサルの学級

 なんだか非常に気抜けしたコポンチは、とりあえずお城を出て西に向かうことにしました。
 どのくらい歩いたでしょうか。しばらく歩いていくと、竹林の壁紙の中に何やら寂しげな庵がありました。コポンチは今夜はそこに泊めてもらおうと決めました。

「すみません、こちらに一晩泊めていただけないでしょうか」

 戸をたたくと、しばらく間があって白髭白髪の品の良いおじいさんが出てきました。

「いいともいいとも。今夜はうちに泊まりなさい」

 庵に入ると、思ったより広々とした室内に、たくさんのお猿が机に向かって何やら一心不乱に書き物をしていました。

「おじいさん、あの猿たちはなんなのですか?」

「あれか、あれはブロガーじゃよ。ああやって机に向かって記事を書いたりブックマークのコメントをつけたりと、一生懸命になって励んでおる。ほれ、あの真ん中で自分の記事をばら撒いているのがおるじゃろう?あれがアルファブロガーじゃ。書くことの無いサルはああやってばら撒かれた記事を真似して記事を書いたりブックマークしたりしてるんじゃよ。どうかな、君も一緒にやってみないかね」

「いや、いいですよ別に。おサルに混ざるのなんて何か恥ずかしいし」

「いいからやってみなされ」

 半ば強引に勧められて、コポンチは仕方なくおサルに混じって記事を書いたりブックマークのコメントをつけてみました。そうすると以外や以外、非常に面白いのです。紙に記事を書いてしばらくすると、余白に他のサルがコメントを書きにきます。また自分から他のサルの紙にコメントを書きに行ったりしました。不思議なことに、どんなにひどい事を書いても、サルたちは掴みかかってきたりせず、黙々とコメントで返してくるのです。コポンチは時間がたつのを忘れてサルたちとお互いの紙に書き込みあいました。

 突然、コポンチは異変に気づきました。コメントを書いている腕が、まるっきりサルの腕になっているのです。あわてて顔に触りました。あご周りにたくさんの体毛が生え、鼻がのっぺりして口が大きくなっていました。
 気づかないうちに、コポンチの体はどんどんサルに近づいていたのです。

「た、助けて」

 コポンチはおじいさんにすがりつきました。

「おや、これはいかん。ほれ、もう大丈夫じゃよ」

 おじいさんが何やらまじないをかけると、コポンチは見る見るうちに人間の姿に戻りました。コポンチはあわてました。

「今のはなんだったのですか?」

「まあ、あれじゃ、説明しづらいんじゃが……」



■妄想の翁

 おじいさんはサルたちに混じって記事を書きながら説明してくれました。
 何でもこのサルたち、というかこの竹林自体がおじいさんの妄想の産物で、すべておじいさんが妄想し続けることで存在している空間なのだそうです。コポンチがどんどんサルになってしまったのは、サルに混じって記事を書いているうちに、知らず知らずのうちに、コポンチ自身もおじいさんの妄想の一部になってしまっていたからだそうです。
 これだけ説明を聞いてもコポンチにはまだ飲み込めませんでした。

「それじゃあ、おじいさんはなぜサルにならないのですか?」

「それは、ここがわしの妄想の中の世界だからじゃよ。自分の妄想に取り込まれるほどわしは愚かではないよ。それにわしにはこの妄想をいつやめてもいいという自由があるんじゃよ。かれこれもう42年もここで妄想を広げておるが、やめたいと思えばいつでもやめられるんじゃよ」

「本当ですか?じゃあやめてみてくださいよ」

 コポンチが言ったとたん、竹林も庵もサルたちも机も記事も、みんなおじいさんの鼻の穴に吸いこまれて、あたりには竹林に入る前の草地が広がっていました。
 コポンチは大変驚きました。

「こ、これは……、もしやあなたは虚無を操ることが出来るのですか?もしやあなたがメタの賢人ですか?ブロゴスフィアを救う知恵をお持ちなんでしょうか?」

「いいや、わしは虚無なるものを操ることはできんし、メタの賢人では無いよ。それにしても何か訳ありのようじゃな」

 おじいさんに聞かれるまま、コポンチはこれまでのいきさつをすべて話しました。するとおじいさんは大変興味を持った様子で、わしも一緒に行きたいと言い出しました。メタの森への道筋もおおよそ知っているから案内してやるともいってくれました。コポンチは大変喜んで、おじいさんの申し出を受けました。

 おじいさんの話によると、メタの森へ行くにはここからいったん北に回って、辺境の無断リンク紛争地帯を掠めてネチケット墓地群の中を通り、正論港に出てからまた南下し、脊髄反射の沼を越えなければなりません。非常に危険な道筋のようです。
 コポンチは尻込みしました。でもお城の雰囲気を思い出すと、逃げたら間違いなく指名手配されそうでしたから、多少危険でも行くしかないよなと、暗惨たる気持ちで決意を固めました。



その2へ続く
posted by ちんこ寺 at 23:52 | Comment(6) | TrackBack(1) | コポンチ・イャチッチ b_entry.gif

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